
なぜ私達の脳は「自己」を持つようになったのか?
古代ギリシアから21世紀の現在まで、人類が考えに考えて調べに調べて、それでも未だによく分かっていないことが一つあります。
それは「自己」とはなにかということです。
それぞれ独立して生きている60兆個の細胞が集まって、「自己」という一個の特別な感覚が生まれてくる。
一応「自己」感覚というのは脳に由来することにはなっています。
しかしなぜそんなものがあるのか、どうやってそんな感覚が湧いてくるのか、そもそも本当に「自己」なんてものがあるのかということはまだ分かっていないようです。
今日取り上げる論文はこの「自己」感覚がなんのためにあるのかについて3つの仮説を説明したものです。
詳しいことはコメント欄に書きますが、この筆者の見解としては「自己」というのは意思決定のための装置なのではないかという考え方です。
普段私達はたえず意思決定をしています。
トイレに駆け込んだり、冷蔵庫から食べ物をあさったり、気になる女の子にちょっかいを出してみたり、一日に数百、数千の意思決定を行っていると思うのですが、これははたしてどういう仕組みでなされているのでしょうか。
一つ大事なのは外側の情報でしょう。
目の前にトイレが有る、食べ物が入った冷蔵庫がある、可愛い女の子がいる、何かを意思決定するためにはそいういった情報をまず認知しなければいけない。
さらにもう一つは内側の情報でしょう。
お腹がグルグルして苦しい、お腹が減ってイライラする、あの女の子を見ると胸がドキドキする、そういった内側の情報に気づくことがなければ、意思決定というものもおこらないでしょう。
脳の中には「自己」に関連する部分があるのですが、この部分はこういった外側の情報と内側の情報を取りまとめてスムーズに意思決定をするために存在するのではないかということが述べられています。
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【要約】
私達自身は果たして一体どういう存在なのかというテーマは心理学的にも哲学的にも根本的な課題である。本稿では自己の内省意識に関係する脳構造について関連した研究を取りまとめ説明を行う。自己意識と関係した脳構造としては後帯状皮質と内側前頭前野が認められ、これらは皮質中央構造と呼ばれている。この自己意識は記憶と大いに関係があるが、同時にまたこの自己意識と関わる脳領域は社会的な状況全般に働くことも示されている。この皮質中央構造の結合パターンから我々はこの領域が何のために存在するのかという3つの仮説を取り上げる。一つは自己とは人々全般を考える上で非常に重要な装置だというものである。二つ目はこの自己とは情報のハブになっているというものである。そして三つ目は自己は身体内外の情報を取りまとめて意思決定をするための器官であるという考え方である。これらの仮説を検証するために今後の研究が望まれる。
参考URL:What Can the Organization of the Brain's Default Mode Network Tell us About Self-Knowledge?
コメント
脳の中の「わたし」感覚に関わるシステムとして脳の中央部にあるデフォルトモードネットワークというものが知られています。
このデフォルトモードネットワークはなにか意思決定をする7秒前にすでに意思決定を反映する形で先行して活動することもあり、この領域が意思決定に大事なのではないかということが述べられています。
もう少し詳しい話を書くと
3つの仮説の第一は、この自己に関わるデフォルトモードネットワークは情報のハブになるという考え方で
脳は感覚、運動、感情、思考、いろんな情報を処理するのですが、こういった情報のネットワークの真ん中に「自己」というシステムを置いておくといろんな情報がスムーズにやりとりできる、そういったものです。
3つの仮説の第二はこのデフォルトモードネットワークは自己だけでなく他人や上司、彼女、彼氏、お客さん、社会に関わる人々全体の情報処理に関わるのではないかというものです。その中でも一番濃いい社会的情報として「自己」というものがあるのではないかという考え方です。