皮質下経路と高次視覚領域の関係とは
よくチェーン店の飲食店に行くと「社長室行き」と書かれたクレームカードを見ることがあります。
お客さんのクレームというのは時としてトップに届きにくい。なぜかというと間に店長やエリアマネージャーなんかの階層構造があって、上まで届きにくいという仕組みがある。
お客さんからのクレームが直接迅速に社長のところまで届けば、迅速に指導を行い、迅速的確な改善が可能になる。こういうわけで「社長室行き」のはがきがあるのではないかと思います。
これを模式図で表すとこんな感じでしょうか。
客→店員→副店長→店長→エリアマネージャー⇆社長室⇆社長
↑ ↑ ↑ ↑ ↓ ↓
←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
今日取り上げる論文は、情動的な視覚情報の処理について調べたものです。
普通一般に考えても怖いものというのは目につきやすい。
対象がはっきりと分かるか分かんないかの段階で、目がドンと対象に釘付けになって注意がバンと向いてしまう。
これはどういう仕組みでそうなっているのでしょう?
よく言われているのは皮質下経路が皮質経路の先回りをしているというモデルです。
普通視覚というのは、
網膜→視床→一次視覚野→二次視覚野→・・・→高次視覚野→情動領域
というふうに順繰りに情報が上がっていき、これが皮質経路と呼ばれるものですが、これだけではなく
網膜→皮質下経路→高次視覚野/情動領域
というショートカットルートがある。
この皮質下というのは扁桃体や視床枕、上丘などの古層の脳領域の神経核です。
この皮質下経路が順繰りでしか上がっていけない皮質経路に先回って、怖い情報、恐ろしい情報、個体の脅威になりうる情報を脳に迅速に伝え、ゆっくり上がってくる皮質経路にフィードバックをかける、そんなモデルがあります。
図でいけばこんな感じでしょう
網膜⇆V1⇆V2⇆・⇆高次視覚野⇆扁桃体⇆前頭眼窩野
↓ ↑ ↑
→皮質下経路→→→→→→→→→→→→→→
こんなふうに皮質下経路が先回って情報を送っているのではないかというふうに考えられてきたようです。
今日取り上げる論文では、実際の脳活動をミリ秒単位で見られる脳磁図で調べたものですが、それでみたところこんな感じのモデルがいちばん妥当性が高いのではないかというものです。
←←←←←←←←←←←←←←←
↓ ↓ ↓ ↑ ↑
網膜⇆V1⇆V2⇆・・⇆高次視覚野⇆扁桃体⇆前頭眼窩野(情動領域)
↓ ↑ ↑
→皮質下経路→→→→→→→→→→→→→→
扁桃体を社長室、前頭眼窩野を社長と捉えれば、お客様の意見がいの一番んに社長室に上がってきて、そこから店員なり、店長なり、エリアマネージャーなりにフィードバックが降りてくるそんなシステムと似ています。
さらにつけくわえるなら店員(一次視覚野)から社長室(扁桃体)、あるいは社長(前頭眼窩野)直通の連絡があり、皮質下経路だけでなく、皮質経路の中でも迅速な連絡システムがあることが示されています。
この図のモデル6がわかりやすいと思います。
【要旨】
「情動的な情報であれば、その刺激特性ゆえ情報が完全に処理される前に注意が向けられることがある。このような現象を説明するモデルとして2つのものが挙げられている。一つは「二段階」モデルで、これは速度の遅い腹側経路に恕堂関連領域からの二次的なフィードバックがかかるモデルである。さらに一つは「二経路」モデルであり、これは先のモデルに追加的に情動領域からの直接的なショートカット経路が存在するというモデルである。今回脳磁図を使用し、どちらのモデルが現実的に妥当であるかについて検討した。結果、二経路モデルの妥当性が高く、網膜視蓋経路と皮質間の長距離連絡からなる経路が妥当な経路として考えられた。」
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