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なぜあなたはコップに手を伸ばせるのか?

コップに手を伸ばせるというと、実に当たり前のような気がしますが、これは簡単そうに見えて中々簡単ではありません。

というのも、コップが見えるということと、コップに手を伸ばしてそれをつかめるということは、全く違うことだからです。

コップを見るのは眼であって、脳が処理するのは視覚情報です。それに対してコップを掴むというのは骨格筋であって、脳が処理するのは感覚情報や運動情報です。

ではなぜこの全く別物の情報がシームレスに繋がって、「見たものに手を伸ばす」ということが可能になるのでしょうか。

今回取り上げるのは、運動前野、とりわけ感覚と運動の中継ぎ役として働く背側運動前野に焦点を当て、その左右差について調べたものです。

Transcallosal connection patterns of opposite dorsal premotor regions support a lateralized specialization for action and perception

脳の大きなネットワーク

脳というのは前頭葉や後頭葉など様々な領域で構成されているのですが、これらの領域は単独で活動しているわけではなく、いくつかの領域が結び合わさって活動しています。

こういった結びつきは小さいものから大きいものまで様々なのですが、その中でも大きなつながりで構成されたものは、ラージスケールネットワークと呼ばれます。

このラージスケールネットワークは、それぞれ視覚や運動、感情など様々な機能を受け持っているのですが、その中の一つに前頭頭頂ネットワークというものがあります。

このネットワークは、外部から入ってくる感覚情報と、自分の意図とを取りまとめる働きがあります。

この前頭頭頂ネットワークがあるおかげで、コップに手を伸ばしたいときには、コップの形状と距離、重さを瞬時に判断して、適切な運動がなされますし、

コップをテーブルの奥へ押し込みたいようなときには、それに応じた運動が引き起こされます。

私達は生活の様々な場面で多様な感覚情報と多様な意図をすり合わせて行動していますが、これらをうまく取りまとめているのが前頭頭頂ネットワークということになります。

前頭頭頂ネットワークの左右差について

このように前頭頭頂ネットワークというのは感覚情報と意図をすり合わせる仕事をしているのですが、私達の脳は右脳と左脳の2つからできています。前頭頭頂ネットワークはこの右脳と左脳で違いがあるのでしょうか。

一般に右半球損傷では失行症状というものが生じます。

これは運動麻痺がないにもかかわらず、いろんな道具が使えなくなる症状で、

服にどうやって袖を通していいいのかわからなくなったり、歯ブラシを持っても葉を磨けなかったりなど、普段使っていたものが使えなくなったりする症状になります。

こういった症状は右半球の前頭頭頂ネットワークが損傷されると起こりやすいため、ヒトにおいては右半球の前頭頭頂ネットワークが、左の前頭頭頂ネットワーク以上に、感覚と意図のすり合わせに重要な働きをしていると考えられています。

背側運動前野の左右差

背側運動前野は、この前頭頭頂ネットワークと構成しているのですが、この左右差というのはどのようなものなのでしょうか。

この研究では16名の健常成人を対象に脳の神経繊維を可視化する技術を使って、左右の背側運動前野がどのように他の領域とつながっているかについて調べています。

結果を述べると、右の背側運動前野は左のそれと比べて、反対半球(左脳)とのつながりが強く、とりわけ左頭頂葉と左視覚野と繋がりが強いことが示されています。

こういったことから右の背側運動前野は、右半球だけでなく左半球の視覚情報や体性感覚情報をも集約しているということで、

視覚を運動に変換する際に重要な役割を果たしているのではないかということが述べられています。

自分の研究では空間表象に応答する時の脳活動を調べているのですが、右手(左半球支配)を使う課題にも関わらず右運動前野のあたりの活動が目立って、なんでだろうと考えていたのですが、

どうも右背側運動前野というのは視覚情報を運動に変えるときに重要な立ち位置にいるようで、

こういう事情もあっての結果だったのかなと思いました。

【要旨】

高次脳機能の側性化には、支配半球が両側から関連情報を収集する必要があります。特に視覚運動変換に関係する右背側運動前野(PMd)は、目標指向の動きのために両方の半球からの視覚空間情報を収束するために最適に配置されていると仮設を立てました。これは、確率的トラクトグラフィーと、標準空間(16人の被験者)における左右のPMdの全脳接続性分布のグループ比較を可能にする新しい分析によって評価されました。結果として生じる対側PMd接続の優位性は、左視覚および頭頂領域との右PMd接続によって特徴づけられ、実際に視覚運動変換における支配的な役割をサポートし、左PMdは前頭葉との優勢な対側接続を示しました。同側の右PMd接続は、左PMd接続と比較して、後頭頂領域でも強かったが、左PMdの同側接続は、特に前帯状回、腹側運動前野、前頭頂皮質で強かった。したがって、支配的な右PMd接続のパターンは、知覚情報を運動系に導く際の特定の役割を示していますが、左PMd接続は、運動意図と優れた精度スキルのリードに基づく行動支配と一致しています。

【参考文献】

van der Hoorn, A., Potgieser, A. R., & de Jong, B. M. (2014). Transcallosal connection patterns of opposite dorsal premotor regions support a lateralized specialization for action and perception. The European journal of neuroscience40(6), 2980–2986. https://doi.org/10.1111/ejn.12656

 

 

 

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