不安障害の発症要因とは?
私達人間は少なからず不安というものを抱えて生きています。
この不安は決して悪いものではなく、危険から身を守り生き抜くために大事なものではあるのですが、
これも度を過ぎると日常生活を送ることがしんどくなることもあります。
不安障害というのは、不安感が強すぎて日常生活に影響が出ているような状態であるのですが、
これはどのような原因によって引き起こされるのでしょうか
遺伝と環境の掛け合わせとしてのエピジェネティクス
近年、遺伝と環境の掛け合わせとしてのエピジェネティクスというものが注目されています。
これは人の有り様は遺伝(生まれ)だけで決まるわけでもなく、環境(育ち)だけで決まるわけでもなく、
その掛け合わせで決まってくるというものになります。
これはアレルギー体質であれば、もともとアレルギーになりやすい遺伝子を持っている人が、アレルギーを誘発するようなストレスが加わることで、遺伝子にスイッチが入り、アレルギーが発症するようなものになります。
今回取り上げる論文は、不安障害に関するエピジェネティクス的要因について論じた総説論文になります。
Cross-generational influences on childhood anxiety disorders: pathways and mechanisms
この論文によると、ヒトを対象にした臨床研究や動物実験研究から、不安障害というのは、遺伝と環境の掛け合わせで生じうることが述べられています。
具体的には
・妊娠中の母親のストレス
・生後間もない時期の養育行動の不足
・特殊なタイプの遺伝子(セロトニントランスポーター遺伝子・脳由来神経栄養因子遺伝子)
・幼児期の母親との死別
などによって、後天的に遺伝子が変化し、不安障害を発症しやすくなること、
さらには後天的に変化した遺伝子が、その子孫にも受け継がれることが述べられています。
遺伝だけで決まるわけでもなく、環境だけで決まるわけでもなく、
特定の遺伝子を持った個体が、特定の環境に晒されることで不安障害の発症リスクを高めるということで
乳幼児にとっての最大の環境である母親への支援、
とりわけシングルマザーに対する支援が大事になってくるのかなと思ったり、
もっともテコを入れなければいけないのは、精神疾患や発達特性によって、社会的に孤立し、経済的に困窮しやすいシングルマザーなのだろうかと思いました。
【要旨】
不安障害は生涯にわたって一般的であり、重度の苦痛と障害を引き起こし、通常は小児期に発症します。実質的な臨床的および疫学的研究は、子供と親における不安とその障害との間に関連性の存在を示しています。これらのリンクの根底にある経路とメカニズムに関する研究は、行動システムと生物学的システムの両方を指摘しています。このレビューは、この研究のいくつかの主要な側面をまとめて要約しています。行動システムには、代行学習、社会的参照、および親の不安のモデリングが含まれます。過度に保護的または批判的な子育てスタイル。子供の症状の家族の調節を含む子供の不安に対する親の反応の側面。生物学的システムには、母親の不安によって影響を受ける出生前環境の側面が含まれます。オキシトシン作動系の発達と機能、および遺伝的および後成的伝達。生物学的に情報に基づいた親ベースの介入を通じて子供の不安治療の結果を高める可能性を含め、子供の不安障害の予防と治療への影響が議論されています。
【参考文献】
Lebowitz, Eli R et al. “Cross-generational influences on childhood anxiety disorders: pathways and mechanisms.” Journal of neural transmission (Vienna, Austria : 1996) vol. 123,9 (2016): 1053-67. doi:10.1007/s00702-016-1565-y