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脳科学から考える幸福と扁桃体

ヒトの扁桃体がどんなところかという点ではいろんな議論があるそうです。

動物実験から見ると、どうやら恐怖とか脅威とか、個体の生存に関わるような情報、脅威刺激に対してより強く反応する。

ヒトで見ればヘビとか蜘蛛、死体、上司の顔、恐ろしいもの全般に強く反応する。

そんなことから扁桃体というのは恐怖に関係したモジュールなのではないかとも言われています。

しかし、条件を変えていろいろみてみると、笑顔の写真を見せてもそれなりに強く反応するし、怒り表情というのはそれほど強いわけではない。

あるいは同じ恐怖表情の写真であれば、明瞭な写真よりも、ぼんやりと写った写真に対してより強く反応する(心霊写真を思い出すとそうかなという気もします)。

こういったことからヒトの扁桃体というのは、ぼんやりとした多義的な情報、もう少し言葉を崩せば「曖昧さ」に対して反応し、素早くそれを検知する、そんな役割があるのではないかということが言われています。

今日取り上げるのは幸福表情と恐怖表情に対する扁桃体の反応を比べたものです。

結論を述べると、扁桃体は幸福表情に対する感度が鈍いことが示されています。

具体的には、恐怖表情であればそこに注意してようが注意していまいが、いやむしろ注意を向けていないほうが、扁桃体がより強く反応する。

それに対し、幸福表情であれば注意を向けていなければ扁桃体が反応してくれない。

幸福を感じるためにはそれなりの意識的な努力が必要なのかなと思いました。

【要旨】

「ヒトの扁桃体は情動的な表情に対して活動の増大を示す。この反応は個体に脅威を与えうるような表情に対して顕著であり、明瞭に意識されていないような環境下でも活動の増大が見られることが知られている。今回機能的MRIを使用し、幸福表情と恐怖表情で、注意の有無によって扁桃体の活動が異なるかについて調べた。実験では建築物の写真と表情写真(幸福または恐怖表情)を半透明上に重ね合わせ、建築異物もしくは表情のいずれかを注目するように指示し、その時の脳活動を調べた。結果、顔情報に注目している時には紡錘状回の活動が、建築物情報に注目している時では海馬傍回の活動が増大した。これとは対照的に扁桃体の活動は表情の種類と注意状態のよって異なる反応を示した。具体的には幸福表情に対しては、表情を注目している状態で活動の増大が見られたが、建築物を注目している時には活動の増大は見られなかった。しかし恐怖表情は建築物に注目している時のほうが高い扁桃体の活動を示した。これらの結果から扁桃体は幸福表情と恐怖表情で注意の向け方で異なる反応を示すこと、また扁桃体は潜在的な脅威対象に対して注意を向けていない時により強く反応することが考えられた。」

参考URL:Differential amygdala responses to happy and fearful facial expressions depend on selective attention.




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コメント

笑顔よりも恐怖表情というのは

曖昧さ云々でいけば、一般的には恐怖表情のほうが笑顔よりも曖昧性が高いからという文脈で説明できるのだろうか

でも世の中には単純な恐怖表情よりもより曖昧性の強い笑顔というものも存在するだろう。

ロバート・デ・ニーロのタクシードライバーとか

モナリザの微笑なんていうのも、あれが人の心を惹きつけるのはあの笑顔の持つ曖昧性のせいかなと考えたり

あるいは昔美術の教科書で見て気持ち悪かった岸田劉生の麗子像

19世紀後半からの印象派のあれこれ、ミレーとかルノワールとか

こういうのを見て心が揺れるのは、曖昧さが扁桃体をグラグラゆする故だろうか。

神経美学という分野もあるそうですが、いつか覗いていみたいです。

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