情動、HPA軸、反芻思考
一昔か二昔前くらいに「くよくよするな」という本が流行ったのを覚えています。
「くよくよするな」とわかっていてできるんだったら誰も苦労しないよと毒づいたことは覚えていますが、このくよくよというのはどういう状態なのでしょうか。
これは同じ事を何度も何度も繰り返して考える、そんな状態なのではないかと思います。
牛が何度も反芻して食べ返すように、おんなじ事を何度も何度も繰り返し、繰り返し考える。
こういった状態がくよくよするという状態ではないかと思います。
こういった状態は英語だとruminationといって、牛の反芻と反芻思考(くよくよ思考)の両方の意味があるようです。
鬱病の背景にはこの反芻思考、くよくよ思考があるそうですが、今日取り上げる論文はこの反芻思考と神経生理学的システムの関係について述べたものです。
情動に関与する脳のユニットとしてHPA軸(視床下部・下垂体・副腎皮質系)というものがあるそうです。セロトニンの分泌にも関わっているようなのですが、過度のストレスにさらされるとこの領域が機能不全を起こし、注意に関わる前頭前野の機能不全を引き起こすそうです。
注意機能がうまく回らないと、注意の転換がうまくできない、注意の転換がうまくできないと同じ考えが延々と回るということもあって、ネガティブな気分が延々と続くということもあるそうです。
これを模式的に示すと
ストレス→→
↓ ↓
HPA軸機能不全 定型的否定思考
↓ ↓
セロトニン調整不全 ↓
↓ ↓
前頭葉機能低下 ↓
↓ ↓ ↓
↓ 注意機能不全 ↓
↓ ↓ ↓
扁桃体過剰活動 反芻思考
↓ ↓
持続的なネガティブな気分
というようなものらしいです。
元気の無い時、鬱々としているときというのは忘れっぽくなったり、ぼんやりして注意力が落ちたりすると思います。
くよくよしているというのは一つのことから注意が離れない、注意の転換がうまくできない状態ともいえるのではないかと思います。
こういったことから鬱状態の背景には、くよくよ思考(反芻思考)があり、さらにその背景には広義の意味での注意機能低下があるのではないかということが述べられています。
【要旨】
「鬱病は再発しやすい。この再発しやすい背景には、鬱病によって引き起こされた否定的な情動を喚起しうる定型的な思考と注意機能の変化が関係していると考えられる。本稿ではこの鬱病に対する脆弱性について認知的所見と神経心理学的所見を統合した枠組みを提示する。基本的な枠組みとしてはHPA軸におけるセロトニン代謝の問題により前頭前野の機能が低下し、皮質下領域の機能不全を引き起こし、ストレスに対し扁桃体が過剰に持続的に活動するというものである。前頭前野の機能低下により否定的な情動に過度に固着する反芻思考が引き起こされる。このような反応はストレスに対する定型的なパターン処理によって引き起こされる。この枠組においては注意機能の低下は鬱エピソードに見られる脆弱性の重要な要因として見られる。本稿では注意障害と関連する生物学的な知見を紹介し、これがいかに反芻思考と情動の調整に関わっているのかについて述べる。」
コメント
気持ちの問題だよとか、気持ちを切り替えなよとかよくいうけれど
そんなことができたら、最初から鬱々した気分になるわけもなく
わだち(車輪の踏跡)がしっかりとついた斜面を転がり落ちるように、心も思考もまっさかさまにネガティブな方へ転がっていく。
一度重い鬱になると、脳の中にしっかり轍(わだち)がつくようで、こんなことが高い再発率のもとになっているようです。
この時期、いわゆる春先と言われる時期はなかなかつらく(-_-;)
安全運転で運行しているカラダをさらに徐行運転させて
頭を下げて無理なくしのごうと思うのですが、読みたい本が思うように読めないというのは少し切ないです(´・ω・`)
急ごうにも急げない状況は生きている以上ついてまわるのでしょうがなく、ゆるりゆるりと春先の陽気を感じようかと思います(´・ω・`)
まあ、負け惜しみですね(-_-;)
酸い甘いとは言いますが、酸味の強い人生です(-_-;)
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