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女性のパニック障害とMAOA遺伝子

パニック障害というのは男性よりも女性に多く、その割合は2.5倍とも言われていますが、女性と男性では生理学的にどのような違いがあるのでしょうか。

今回取り上げる論文はパニック障害患者のMAOA遺伝子とライフイベントとの関係について調べたものです。

MAOA遺伝子というのはセロトニンを分解する酵素であるモノアミン酸化酵素の合成に関わる遺伝子で、

この遺伝子が活発に働くほど体内のセロトニンが分解されやすくなり、

その結果、体内で有効に使えるセロトニンが少なくなることになります。

このMAOA遺伝子の働きですが、生まれつきすべてが決まっているわけではなく、後天的に経験する出来事でその働きが強くなったり弱くなったりすることがあります。

こういった変化はエピジェネティクスと呼ばれ、具体的には遺伝子にメチル基と呼ばれるものがくっついたり(メチル化)、離れたり(脱メチル化)によって引き起こされ、

メチル基がくっつくことで遺伝子の働きがおさえられ、離れることで遺伝子の働きが促される仕組みになっています。

この研究ではパニック障害患者65名(女性44名、男性21名、平均年齢33.3±9.7歳)と健常者65名を対象に遺伝子解析を行い、ここ数ヶ月以内に起こったライフイベントについて調査しています。

結果を述べると、男性においてはMAOA遺伝子の変化(メチル化の程度)はパニック障害患者と健常者の間に違いは見られなかったのですが、女性については見られたこと(MAOA遺伝子の脱メチル化が顕著であったこと)、

また最近のライフイベントでネガティブなものがあるとMAOA遺伝子の脱メチル化傾向が高く、

ポジティブなものが多いほどMAOA遺伝子のメチル化傾向が高いことが示されています。

つまり悲しいことや辛いことが多いほど、体質的にセロトニンが少なくなる方にに変化して

楽しいことや嬉しいことが多いほど、体質的にセロトニンが増える方に変化するということで

ライフイベントというのは遺伝子に大分影響を与えるのだなと思ったり、

あるいは対症療法的になにかをするよりも、体調不良の大本になる環境を変えることのほうが大事なのかなと思いました。

自分を慈しみたいものです。

【要旨】

モノアミンオキシダーゼA (MAOA)遺伝子は、パニック障害の病因における最良の候補として示唆されている。本研究では、MAOA調節領域およびエクソン1/イントロン1領域におけるDNAメチル化パターンを、性別および環境因子の影響の可能性に特に注意を払いつつ、パニック障害との関連について検討した。パニック障害患者65例(女性44例、男性21例)および健常対照65例を対象に、血液細胞から抽出した重硫酸ナトリウム処理DNAの直接配列決定を介して、MAOA CpG部位42カ所のDNAメチル化状態を分析した。最近の正負のライフイベントの発生を確認した。男性被験者は、対照と比較して、イントロン1の1つのCpG部位での相対的な低メチル化の証拠を有するメチル化を全く示さなかったか、またはごくわずかであった。女性患者は、プロモーターおよびエクソン/イントロン1の10箇所のMAOA CpG部位で、健常対照者よりも有意に低いメチル化を示し、4箇所のCpG部位での複数回の検査のための補正後も有意であった(pf0.001)。さらに、女性被験者では、負のライフイベントの発生は比較的メチル化の低下と関連していたが、正のライフイベントはメチル化の増加と関連していた。今回のパイロットデータは、特に女性患者におけるパニック障害の病因におけるMAOA遺伝子の低メチル化の潜在的役割を示唆し、おそらく負のライフイベントの有害な影響を媒介している。今回の所見を独立したサンプル、できれば縦断的デザインで再現するには、今後の研究が必要である。

【参考文献】

Domschke K, Tidow N, Kuithan H, et al. Monoamine oxidase A gene DNA hypomethylation - a risk factor for panic disorder?. Int J Neuropsychopharmacol. 2012;15(9):1217-1228. doi:10.1017/S146114571200020X

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