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好きと嫌いの脳科学

隙と嫌いが一瞬で反転する瞬間というのがあるのではないかと思います。

例えばビール。

あれほど苦くてまずいと思っていたのが、夏のある暑い日、あるいはスポーツか何かで汗を流した後グッと飲むと、「おお、うまい」とビールの味に目覚める。一瞬にしてビール嫌いからビール大好きに変わる。

人間関係においてもそんなことがあるかもしれません。

かわいそうと思って、一生懸命世話していても、なかなか結果が出なかったり、あるいは非援助者が援助者の思うように動いてくれないと、あるポイントで「こんなにしているのに」と非援助者に対して好きから嫌いに一瞬にして変わる。

在宅介護で虐待が起こるのもこんなことが関係しているのかもしれません。

今日取り上げる論文はこの好きと嫌いの転換がどのように起こるかを調べたものです。

実験では、ある視覚刺激を快刺激と結びつけて、サルがその視覚刺激を好むように仕向け、それに馴染んだ所で快刺激を不快刺激に変えていった時のサルの行動の変化と扁桃体の変化を追ったそうです。

結果、不快刺激が何度か続くとある瞬間から扁桃体が「きらい」反応になり、それを追うようにサルの実際の行動も「きらい」的な反応に変化するそうです。

この変化の仕方はじわじわ変わるのではなく、あるポイントで突如として扁桃体の活動が切り替わり、それに応じて行動も急変することが示されています。

【要旨】
「視覚刺激は報酬と結びつくか、あるいは罰に結びつくかによって肯定的あるいは否定的な価値を獲得する。これは強化学習と言われている。視覚処理については多くの知見が得られているが、価値と関連した視覚刺激の処理についてはほとんど知られていない。本研究では強化学習に関わっているとされる扁桃体に着目しこの点について調査を行った。実験では抽象的な画像をサルに見せている時の扁桃体の活動について調べた。抽象的な画像と報酬/罰との連合学習がなされた後に、関係を反転させ、扁桃体の活動と実際の反応の変化を測定した。実験の結果、価値の変換によって扁桃体の活動が変化し、強化学習が成立し、行動の変化に結びつくことが示された。さらに特定の神経細胞集合が視覚情報と関連した肯定的あるいは否定的な価値をコードすることが示された。このことから行動上の変化や心理的な反応の変化は扁桃体の変化によって引き起こされていることが考えられた。」

参考URL:The primate amygdala represents the positive and negative value of visual stimuli during learning.



コメント

介護虐待という言葉もありますが、「援助者の三角形」という人間関係のパターンがあるそうです。

最初は「かわいそう、助けなきゃ」という援助者の立場として始まり、

効果が出ない、自分の思ったように非援助者が替わってくれないと「なんでこんなに頑張っている私がこんなひどい目にあうの」というふうに援助者は被害者に転換し、

私がこんなにつらいのはあいつのせいだというふうに攻撃をし始め、ここにいたって援助者は被害者を経て攻撃者になる。

これで非援助者が傷つくと、今度はまた「かわいそう」になって振り出しに戻る。

高齢者を持つ家族、アルコール依存症者の家族、引きこもりを持つ家族、さらには援助職全般

往々にしてこういったことが起こりやすいそうです。

「喧嘩するほど仲がいい」とか「嫌よ嫌よも好きのうち」、あるいはツンデレという言葉を持ってこなくても、好きと嫌いはおそらくそんなにはかけ離れておらず、扁桃体がどっかがスイッチになって容易に切り替わりうるのかなと思います。

それゆえ援助と攻撃は容易に切り替わりやすく

人が人を援助するというのは案外細い綱の上を渡るような難しさがあるのかなと思います。

 

 

 

 

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