サーチライト仮説としてのワーキングメモリ
今日取り上げる論文はワーキングメモリに関するものです。
結論から言うと、ワーキングメモリとは従来言われてきたように前頭前野に情報が留められ、それを中央実行系と呼ばれるシステムが操作するような、そんな仕組みではなく、
情報そのものは後部皮質領域に広範に保持され、前頭前野はその情報が減衰しないように、サーチライトのように後部皮質を照らしているというのが本論文に示された仮説になると思います。
これを簡易的に図示すると、従来のモデルが
感覚→後部皮質→前頭前野
(入力) (経由) (保持)
のようなものだったと思うのですが
情報が入ってきて最初に知覚される段階では
感覚→後部皮質
でトップダウン的な情報の処理がされ、
次の段階の知覚から認知に至る段階では、長期記憶システムが入ってきて
感覚→後部皮質
↑
長期記憶システム
とトップダウン的な処理へ移行し、
認知から保持の段階では
感覚→後部皮質←前頭前野
↑
長期記憶システム
というふうに前頭前野が、後部皮質に表象された情報が減衰しないように、後部皮質の情報をポインターのように照らしている、そんなモデルが提唱されています。
ワーキングメモリが従来言われ得ているように7つくらいしか覚えられないというのは、前頭前野がキープできる情報量が7つなのではなく、前頭前野が持っているポインターが7つだというように考えたほうが良いのではないかということが述べられています。
「近年の研究から、ワーキングメモリシステムに前頭前野と後部皮質システムの持続的な相互作用が関係していることが示されており、加えて長期記憶領域も活動が強くなることが報告されている。またワーキングメモリに伴う後部皮質の持続的な活動が前頭前野により促されていること、また長期記憶システムが後部皮質に見られる短期記憶の保持を促していることが示されている。こういった視点からワーキングメモリが機能するためには特別なシステムが必要なわけではないことが考えられる。前頭前野というのは後部皮質の情報処理システムが適切に、持続的に活動するためのポインターのような役割をしているものと考えられる。短期記憶の容量とは、すなわち前頭前野が保持するポインターの数なのではないかということが考えられた。」
参考URL:Working memory retention systems: a state of activated long-term memory.