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人間というのは他の動物と比べても様々な変わった特徴を持っていると思うのですが、その中の一つに「嗜癖」というものがあるのではないかと思います。

これが嗜む程度であればいいのですが、度を過ぎると「依存症」「中毒」という名前を与えられ社会の中で生きていくのが難しくなっていくのですが、これは神経生理学的にどのように説明できるのでしょうか。

今日取り上げる論文はアルコール依存症特有の脳活動について脳波に関わる様々な指標との関連性について述べたものです。

結論を述べると

1)アルコール依存症およびアルコール依存症者の子供は特有な脳活動パターンを示し、それは特有な脳波として示される

2)かつその特有の脳波に関連する責任遺伝子も存在する

3)それゆえ脳波測定からアルコール依存症になるリスクを予想することが可能である

ということが述べられています。

ポイント

目的)本稿は急性もしくは慢性的なアルコールの影響について脳波、事象関連電位、事象関連振幅などの神経生理学的指標の違いについての説明を試みるものである。さらにこれらの神経生理学的指標と遺伝形質との関係についても論じる。

方法)本稿ではアルコール依存症者特有の脳活動について脳波もしくは事象関連電位で示される特徴について述べる。さらにはアルコール依存症者の子供についての同様の研究についても言及する。また遺伝形質とこれらの指標との関連を述べ臨床的な診断との関連について述べる。

結果)アルコール依存症者特有の神経生理学的指標の多くが遺伝形質との関連性があることが示され、これらの指標がアルコール依存症になる可能性を示しうること、さらにはアルコール依存症を含む脱抑制的な広範な症状と関連することが示された。さらにこれらの神経生理学的指標に直接関連する遺伝子について同定する。

結論)神経生理学的指標によって遺伝形質との関連が示されうること、またそのことによってアルコール依存症を発症するリスクを予想できると考えられる。

参考URL:
The utility of neurophysiological markers in the study of alcoholism.

補足コメント

ある研究ではアルコール依存症の子供がアルコール依存症になるリスクは約8倍であるというものもあるようです。

少し詳しい話をすると

何かを認知するときに立ち上がる事象関連電位にP300というものがあり、これは刺激が示されてから約300~400ミリ秒後に立ち上がるPositiveな向きの電位なのでP300と呼ばれているようですが

アルコール依存症およびその子供ではこのP300と呼ばれる電位が特徴的に低いこと

また何かを認識するというのはそれ以外の情報を抑制するということで、このP300は脳の中の抑制系の働きの指標にもなるそうなのですが

アルコール依存症の脳はこの抑制系の働きに先天的な機能不全があるのではないかということです。

依存症というのは様々で、飲酒や盗癖、覗き癖、浮気癖、仕事癖、暴力癖、賭博癖いろいろですが

当事者によると毎日が衝動との戦いのようで相当大変なようです。

生理学的なところではなく生育歴や社会状況などいろんなものが関わってくると思うのですが、何かを判断するにあたって標準的な人をゴールデンルールにするのはどうなのかなという気もするのですが

日本にはいろんな自助グループがあるので大変な人は参考にしていただけたらと思います。

http://www.dia.janis.or.jp/~tao/link.html

石を投げる前に立ち止まって考えることも必要なんだろうなと思います。

アルコール以外の依存症でも同じような脳波が見られるのでしょうか?

ご質問ありがとうございます。行動の抑制がうまく効かないような症例に広く見られるそうです(´・ω・`)

ありがとうございます。やはり見られるのですね。
興味深い論文をありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

興味深い論文のご紹介と解説、有り難うございます!
とすれば、それぞれに関連する抑制系の遺伝子操作ないし、脳領域を賦活させることができれば、症状改善につながるかもしれないと考えて良いのでしょうか?

理論的にはきっとそうなのだろうとは思いますが・・

苦しみのないところにはきっと宗教も哲学も芸術もないだろうとも思います(´・ω・`) 決して苦しみをよしとするわけでもないのですが・・

 

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