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私達の脳はどのように進化したのか?

地球上には様々な動物がいますが、人間の持つ脳というのは大分特殊です。

脳の大きさだけで考えても他の動物と比べて際立って大きいこともありますし、

引用:ABOUT:BLANK ;”Relative Brain Sizes”

その相対的な量、体重に比しての脳重量の割合(脳化指数)ということで考えても際立って大きいということもあります。

引用:毎日が発見ネット 「カラスにチンパンジー、魚まで⁉ 道具を使えるのは人間だけではない/身近な科学」

このように人間の脳が特殊に進化してきた理由として、いくつかの仮説が挙げられています。

一つは、自然環境との戦いが人間の脳を進化させたというものです。

食べ物を見つけたり危険な動物から逃げたりやっつけたりというハードルがヒトの脳を進化させたという仮説です。

もう一つは社会が脳を進化させたというものもあります。

これは人間同士が互いに争いあい、欺きあう社会の中で脳が進化していったという仮説になります。社会脳仮説とも言われています。

もう一つは協力関係がヒトの脳を進化させたというものになります。私達が生き延びていくためには、互いに知識を共有したり助け合ったりする必要があります。そのようなプロセスを通してヒトの脳が進化してきたという仮説になります。

これらを図にまとめると以下のようなものになるのですが、

果たしてどの要因が私達の脳を形作ってきたのでしょうか。

ヒトの脳の進化要因を計算する

今回取り上げる論文は、ヒトの脳がどのようにして作り上げられてきたかについて、生理学的なパラメーターを使用してシミュレーションをして推定したものになります。

González-Forero M, Gardner A. Inference of ecological and social drivers of human brain-size evolution. Nature. 2018 May;557(7706):554-557. doi: 10.1038/s41586-018-0127-x. Epub 2018 May 23. Erratum in: Nature. 2018 Sep;561(7723):E32. Erratum in: Nature. 2019 Mar;567(7746):E4. PMID: 29795254.

この研究では、考古学的に判明しているヒトの脳の大きさや体の大きさ、技術レベルをもとに、どのような要因が現在のヒトの脳を形作ったかについて調べています。

答えを最初に言ってしまうと、

・環境:60%

・協調行動:30%

・グループ間の争い:10%

・個人間の争い:ほぼ0%

ということになります。

ではどのようにしてこの数字が出されたのでしょうか。

「私対自然」

まず「私対自然」で考えてみましょう。

自然環境の中で生き延びるためには様々な技術が必要です。

蛇やライオンといった危ない動物を見分ける能力、危険な状況から逃げ出す能力など様々な技術を身につけることで、より確実に生き延びられるようになります。

過酷な自然環境の中で生き延びていくためには、より多くの技術をより早く身につけられる方が有利なので、脳の大きさはどんどん大きくなる方へ傾きます。

また身体を小さくしたほうが多くのエネルギーを脳に回せるので、身体の大きさは小さくなる方へ進み、結果として相対的な脳の大きさ(脳化指数)は大きくなることになります。

「私たち対自然」

ではこれが「私たち対自然」だとどのようになるのでしょうか。

家族や集団で自然と立ち向かうような場合には、私たちは他人のスキルを借りることができます。言い換えれば他人の脳を当てにすることができます。

このような状況では一人ですべてのスキルを身につける必要がなくなるため、脳の大きさは小さくなる方へ進み、脳化指数も小さくなります。

このように自然環境と対峙する場合でも、個人で対峙する状況と集団で対峙する状況では脳の進化に与える影響も異なってきますが、これが身内同士で争う場合にはどう影響してくるのでしょうか。

「個人対個人」

一つは個人と個人が争う場合です。

しょっちゅう個人同士が争っているような状況では、日常的に得られるエネルギーが小さくなってしまうので、身体が小さくなる方へ変化します。

脳の大きさについては文化の蓄積がほとんどない原初の状態(PC)であれば、個人間の争いは脳の大きさを大きくする方向へ向かいますが、文化の蓄積が多い現生人類に近い状況(EC)になると、個人間の争いは脳を小さくする方向へ進みます。

これは極端な例として、拳で争う他なかった世界と、拳銃がある世界を考えてみれば分かりやすいのではないでしょうか。

拳しか使えないような世界で相手に勝つためには賢さが必要になってきますが、だれもが拳銃を持っているような世界では賢さは必要ありません。撃鉄を引く程度のスキルを身につけるだけで指数関数的にサバイバル能力が高くなるからです。

引用:喧嘩稼業(第4巻) ISBN 978-4-06-382504-6

引用:Vancouver Sun: Girls play with toy guns too: Readers

「私たち対彼ら」

最後に「私たち対彼ら」という状況を考えてみましょう。

このような状況では、「私たち対自然」と同じように、仲間同士で協力しあうので、一人あたりの脳への負担は小さくなり脳の大きさは小さくなる方へ向かいます。

引用:togetter: 「ネアンデルタール人の脳味噌はサピエンスよりもでっかい」

しかし脳が小さくなる以上に、グループ同士の戦いが増えると、日常得られるエネルギーが少なくなるため、身体は脳以上に小さくなる方へ変化し、結果として脳化指数は高くなります。

以上のような要因をパラメーターとして、考古学的に判明している人類の身体や脳の大きさの変化に当てはめ、シミュレーションをかけると結果として、もっとも妥当なのが、環境6割、協調3割、個人闘争0割,集団闘争1割という影響力になることが述べられています。

つまりヒト同士の闘いや助け合いが脳の進化を促したという社会脳仮説よりも、自然環境の中でのサバイバルそのものが脳の進化を促したという考え方が正解に近いのではないかということで、いまいちロマンに足りないなと思ったり、

あるいは近年、人間は人間自らを飼いならしたという自己家畜化という概念も聞かれますが、これも同じ文脈で語られるのかなと思いました。興味深いです。

 

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