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半側空間無視患者の視覚情報処理はどの様になっているのか?

今日取り上げる論文は、半側空間無視患者の視覚情報処理について調べたものです。

結論から述べると

①左半側空間無視患者においても、色調や表情のような情報は、それが提示されるのが左側であっても、認知に十分な影響を与えうる。
②色調や表情のような情報を処理する機構は前頭-頭頂に由来する注意システムとは一部異なる経路でなされている。

ということです。

以前、森岡周先生の「リハビリテーションのための認知神経科学入門」の中で、「燃える家」課題についての解説を読んで、えらく驚いたことがあるのですが、これは左半側空間無視患者に、左側が燃えている家と燃えていない普通の家を見せて、どちらに住みたいかと聞くと、半側空間無視の性質上、左側の情報が落とされて2つの絵は同じに見えるはずにも関わらず、圧倒的な確率で燃えていない方の家に住みたいと選択するようなそんな実験だったと思うのですが、今回の実験も同様で、たとえ左側に提示される情報が情動に働きかけるものであれば、認知判断に何らかの影響を与えうることが示されています。

遺伝子検査のジーンライフ<Genesis2.0>

【要旨】

「健常人が何かを見る場合には、特徴のある刺激によって視覚探索が促される。今回、表情と色調が顔の探索課題に与える影響について、健常者と左半側空間無視患者を対象に実験を行った。結果は、色調、感情的な表情、中立的な表情の順に視覚探索が促されることが示された。また健常者は左空間への注意が右空間に比べて優位であることが示された。対称的に左半側空間無視患者は左空間への注意が向きづらい傾向があった。しかしながら色調や感情的な表情が視覚探索に与える影響は、健常者も半側空間無視患者も同様の傾向が見られていた。このことから左半側空間無視患者においても、色調や感情的な表情といった低いレベルの情報処理においては障害されていないことが考えられた。この種類の情報処理は前頭-頭頂システムでなされる空間注意機構とは、部分的に異なる経路でなされていることが考えられた。」

参考URL:Effects of emotional and non-emotional cues on visual search in neglect patients: evidence for distinct sources of attentional guidance.

コメント

これは例えば、左半側空間無視の患者さんの食事のテーブルの座席は、左前側に情動を喚起してやまないようなおしゃべりなおばさんを配置すればいいとか、そんな感じなんだろうか。
そんな単純なものではないですよね(T_T)

扁桃体やその周辺を中心とした情動的な情報に基づく認知は、もともと生きるか死ぬかというような状態ではうまく回っていたんだけど

そんな情動脳に、相互依存的な社会というものを形成するヒトのような前頭前野がふくれたような脳がかぶさってきて
よくわからない現象が起こるんだろうか。

ヒトの持つ文化というのは情動と社会性(理性)のキメラ(あいのこ)だと常々思うのだけれども

例えば昨日は私のソウルフードであるきりたんぽ鍋を作って

これは必ず、鶏肉、芹、ネギ、舞茸、牛蒡、糸こんにゃくが入ってなければいけなくて、それ以上でもそれ以下でも絶対にダメで

豆腐入れたり、生卵入れたり、ましてや雑炊にする輩はテーブルごとひっくり返したくなるのだけれども

こういう形式だった文化的な作法も、つきつめて考えればそうでなければいけない理由はどこにもない。

この正しいきりたんぽという概念は、根本的には好き嫌いの情動とは切り離せなく

こういのは性癖とも似ている。性癖なんて人間だけが持つ高度な文化だろうな。

こういう物言いは怒られそうだけど、社会的な価値観も、性癖と同じ文脈で考えられそうな気がする。つまり情動と社会性(理性)のキメラであるところの「文化」だと思うのです。

ヒトはよく分かんなくて面白いです。

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