フォローする
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

恐怖と扁桃体の関係とは?

扁桃体病変の患者さんは時に怖いものがわからなくなる事があるようです。

怒ってそうな人、機嫌が悪そうな人を見れば、自然とそっと距離をおくものだと想うのですが、扁桃体に病変がある患者さんは時にそんなことお構いなしにニコニコ近づいていくこともあるようです。

なぜこのようなことがおこるのでしょうか?

よく言われるようにヒトは相手の目を見て相手の感情を認知しています。

相手の目というのは、顔全体が持ついろんな情報の中でも際立って、相手の感情を示す重要な情報のようです。

このようなことがあって、普通他人の顔を見ると、本能的に、ボトムアップ的に、扁桃体を通じて相手の目の情報が自分の目に飛び込んでくる。

扁桃体が「相手の目の情報自動汲み上げ装置」として働き、何も考えなくても視線は相手の目の方を向き、そこにロックインされる。

その情報を元に「怒っている」「機嫌が悪い」という認知が働き、何らかの行動につながると思うのですが、扁桃体損傷患者では、この扁桃体の「目の情報自動汲み上げ装置」が機能しないためボトムアップ的に飛び込んでくるということがないようです。

では全然相手の目に気が向かないかというと、意識して「目を見るぞ」と気を張っていると、それなりに相手の目を見ることができるそうです。

今日取り上げる論文では、扁桃体損傷患者は相手の目に注意を向けるのが苦手なのですが、これは扁桃体が絡むようなボトムアップ的な注意の問題によるもので、自分から情報を取りに行くようなトップダウン的な注意に関してはその限りではないということが述べられています。また自閉症者も相手の目を見ることができないとされているのですが、これにも扁桃体の機能が関係しているのではないかという事が述べられています。

 



【要旨】

「SM氏は両側の扁桃体を完全に損傷しているため、視線を相手の顔の眼に固定することができず、そのため相手の恐怖を認識することができない。本研究ではまずSM氏に顔全体の写真を見せ、その時の視線の動きについて評価を行った。結果、顔全体の写真を見て最初の段階では目に視線を固定することができなかったが、この傾向は写真を見続けることで減弱することが示された。次に設定を変え、SM氏が視線を向けている方向だけスポットライトで照らされるように写真の一部分が見える方法で実験を行った。この方法ではSM氏は視線を写真の目の部分に固定することができた。このことからSM氏はトップダウン的な方法で視線を目に向けることが可能であることが考えられた。以上の結果からSM氏が視線を目に向けることができないのは扁桃体損傷のために相手の目という際立った情報をボトムアップ的に処理できないためであることが考えられた。相手に目を合わせられない障害は自閉症や脆弱X症候群など様々な疾患において見られ、扁桃体が関与しているものと考えられる。」

参考URL:Impaired fixation to eyes following amygdala damage arises from abnormal bottom-up attention.

コメント

欧米では相手の目を見ることが正しいとされ、日本では相手の目をあんまりじっと見るものではありませんといわれる。

相手の目を見るということは相手に自分の目を見せるということと一緒で

そこに心の一体化とは言わないけれども濃密なコミュニケーションが成立する。

ただでさえ相手に合わせるのが美徳とされる日本人には、目を合わせることで成立する濃密な情動交換状態は過度の負担になるゆえ、相手の目を直接に見ない文化になったのかななどと考えました。入り口を絞るのが日本で、出口を絞るのが欧米なのかなと。

相手の気持は適度に見ないことにしておいた方が時に良い結果になるのかなと思います。

 

 

※一日一つ限定ですが、個人や非営利団体を対象に脳科学に関するご質問・調査を無料で行います。興味のある方はホームページの「お問い合わせ」ボタンからどうぞ。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします