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ヒトはなぜ処罰するのか?

つねづね疑問に思っているのですが、なぜ人は人を裁くのでしょうか。

地球上で同種が同種を裁くのはおそらくヒトだけでしょう。

ヘビがカエルを飲み込んだという話は聞くけど、ヘビがヘビを裁いたという話は聞かないし、賢いといわれるチンパンジーも法律や裁判所があるという話は聞かない。

第一裁くことにはコストがかかる。

裁くために集まるのも手間だし、裁判所や法律を作るのもただではない。

本来食べるために働いて、本来家族と語り合ったり、同僚と飲みに行く時間を割いて、そういったお金や労力を支払ってでも人は人を裁き罰する。

この裁く、罰するという行為は他の動物には見られない行為のように思えるのですが、人はなぜこのようなことをするのでしょうか。

今日取り上げる論文はこういった人の処罰行動について調べたものです。

実験の詳細はややこしいので省きますが、職場や学校での協力行動を模擬的に再現したものです。

みんなで協力すれば早く終る仕事がある。

みんなで一生懸命やろうという人もいれば

めんどくさいし、顔だけだして適当にやろうという人もいるかもしれない。

あるいは一人だけ抜け駆けして、さっさと家に帰ってしまう人もいるかもしれない。

こうした状況を人為的に創りだした場合どういったことが起こるかを調べたものです。

結果を述べると、チームに対する貢献度が低い人を処罰できるルールが有る場合(処罰を行うには一定のお金を払うという条件のもとでも)、皆の協調活動が大いに高まり

貢献度が低い人を処罰するルールがない場合、協調行動は破綻するということが示されています。

またチームに対する貢献度が高い人ほど、積極的に貢献度が低い人への処罰行動が多いことが示されています。

ヒトは色んな場面で協調行動、協力行動を取るけれど、こういった処罰行動がヒトの協調行動の基盤になっているのではないかということが述べられています。



「ヒトに見られる協力行動は進化の謎解きのようなものである。他の生物と異なり、ヒトは生得的に協力しあう傾向があり、これはほとんど関わりのない人とさえも、ほとんど見返りがない状態でさえも、協力しあう点で特殊である。これは自分の遺伝子を残すといった考え方や互助的に協力し合うことでお互いに利益を得るという考え方では説明がつかないものである。本稿ではある実験を元に、このヒトに見られる特徴的な協調行動には利他的な処罰が重要な役割を果たしていることを示す。この利他的な処罰とは、なんらかの処罰を加える事で何ら利得がないにもかかわらず、行われるような処罰である。この利他的な処罰があることで協調行動が発生し、またこの利他的な処罰がない状態では協調行動が破綻することを実験を通して示す。これはルールの逸脱者に対する不快な感情が利他的処罰の行動因となっていることを示す。今後の協調行動の研究にはこの利他的な処罰に強く焦点を当てる必要があると思われる。」

参考URL:Altruistic punishment in humans.

コメント

処罰するには手間も労力もかかるけど、往々に人は人を罰します。

この処罰があることで全体の協力行動が高まるので、自らコストを払っても、チームを阻害するだれかを罰する行動を利他的処罰というようです。

ただ人を罰するというのもリスクもコストもあるので

ゲーム理論でシミュレーションを行うと、もっとも力と余裕のあるボス的個体が、貢献度が少ない個体を罰するシステムで安定するようです。

職場の人間関係を見ているとボス個体(貢献度大)が弱小個体(貢献度小)を制裁するのは、ゲーム論で考えても、人の生まれ持った性質で考えても自然の成り行きなのかなと思ったり

あるいはこのヒトが人を罰したい、社会の価値観を乱すものを罰したい、言い換えれば自らの価値とそぐわないものを罰したいという欲求が生得的なものならば

人が多様な価値を持つ以上、争いというのはなくならないのかなと思ったり

あるいは法律というものを作って、そこに下駄を預けたというのは素晴らしい知恵だと思ったり

人がどんなものかを調べたり考えたりしていると、まあ大変な生き物に生まれついてしまったと思うことが多いです(-_-;)

 

 

 

 

 

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