なぜ私達の脳は差別や偏見に傾きやすいのか?
差別と偏見は普遍的です。
人類の歴史が始まって以来、差別と偏見はいろんな時代やいろんな地域、いろんな業界で起こるのですが、これはいったいどういうわけでしょう。
差別と偏見というと「あいつらは何を考えているか分からない」、あるいは「あいつらのことだから、ああいうふうに考えているに決まっている」というような思考パターンなのですが、これに関係するような脳活動というのはあるのでしょうか。
今日取り上げる論文は人の心の中を想像している時の脳活動を調べたものです。
社会に生きていると嫌でも他人の心を考えたり探ったりしなければいけないのですが、こういったことには脳の中でも心のシミュレーションに関わる部分が働くことが知られています。
心のシミュレーションには大きく分けて2つあります。
一つは「自分ごと」としてシミュレーションするもの、これは「ああ、きっと痛いだろうな」とか「きっと辛いだろうな」というようにじんわり自分の心が動くような感じでシミュレーションするシステムです。
もう一つは「他人ごと」としてシミュレーションするもの、これはクールに相手の状態を自分の心抜きで客観的の捉えるものです。
このように脳の中のシミュレーションシステムにはこの「自分ごと」と「他人ごと」の両方に対応した部分があるのですが、自分と似た人の心を想像するときには「自分ごと」システムがよく働き、自分と似ていない人の心を想像するときには「他人ごと」システムがよく働くことが示されています。
外見や思想が著しく異なる相手に対しては、その心の中を探る時「自分ごと」システムを駆動させにくい。
結果「何を考えているか分からない」という反応になるか、「きっとああにちがいない」といった知識に基づいたステレオタイプ的な判断がなされるのではないかということが述べられています。
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【要約】
人の社会的なコミュニケーションというのは、他人は自分と同じように考えているという前提に立ってなされている。今回機能的神経画像を用いて自分と似ている人と自分と似ていない人の精神状態を想像している時の脳活動について調べた。結果、自分と似た他者の心の中を想像している時は腹内側前頭前野の活動が高まり、自分と似ていない他者の心の中を想像した時には背内側前頭前野の活動が高まる傾向があった。自分のことを考えている時と自分と似た他者のことを考えるときに同様の領域が活動していることから、社会的認知は自己をベースにしたシミュレーションではないかということが考えられた。
参考URL:Dissociable medial prefrontal contributions to judgments of similar and dissimilar others.
コメント
もう少し詳しい話を書くと、自分ごとシステムというのはデフォルトモードネットワークの中の内側前頭前野、その中でも腹側部分で
他人ごとシステムというのは同じく内側前頭前野の中の背側領域で
前者は情動系、後者は認知系とつよい結び付きがあるそうです。
苦労が多い人は人の気持ちがわかるというのは、いろんか経験があるからより自分ごとシステムを駆動させやすいということなのかなと思いました。