フォローする
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

なぜあの子の脳は我慢ができるのか?

世の中には成功できる人とできない人がいますが、その違いというのは一体何でしょうか?

一つは我慢できるということでしょう。

見たいテレビを我慢して明日の栄光のために勉強する、

今日食べたいケーキを我慢して、来年の夏に備える、

今日のお酒やたばこを我慢して、今年一年の健康を取る

いろいろありますが、肝になるのは見えない将来の方を取れるか取れないかということではないかと思います。

でも世の中には成功する人と成功しない人に対応するように、我慢できる人とできない人がいます。

これは神経科学的に考えて何か説明がきくものはあるのでしょうか。

行動経済学では時間割引という概念があるそうです。

たとえば目の前にドーナッツが1個のお皿と100個のお皿が並んでいる。どちらがいいかというと当然100個の方でしょう。

ところが今食べる1個と3年後にもらえる100個だったらどっちのほうがいいでしょうか。

大抵の人は今食べる1個の方を選ぶのではないかと思います。

なぜそんなことが起こるかというと将来のご褒美には人間は自然と価値を減じる傾向があって、時間が長くなればなるほどその価値はどんどん下がっていく。

そのため今の1個のほうが将来の100個よりもいい、そういったことがあるようです。

頑張れる人はこの時間割引というものがおそらく少ない、つまり今の1個より将来の100個に魅力を感じられる人だと思うのですが、果たしてこのような人は特殊な脳を持っているのでしょうか。

どうやら答えはイエスのようです。

脳というのはいろんな部分で成り立っているのですが、その中でも「自分ごと」システムと「他人ごと」システムというのがあるようです。

面白いことに普通の人間は目の前にドーナッツがあるというような今の今を考えるときには「自分ごと」システムが駆動して、ドーナッツを噛んだ時の歯茎に当たる感じや口に広がる甘さ、陶酔感、そういったものが働くようなのですが、

過去のこと、将来のことをイメージするときには「他人ごと」システムが駆動してしまうそうです。

つまり3年後ドーナッツ100個あるのは想像できるけど、あたかも他人ごとのようにしか感じられず、自分ごとのような感覚、情動が惹起しない、そういったことがあるようです。

ところが脳画像で我慢できる人の脳を調べてみると将来のことを考えた時も「自分ごと」システムが駆動する傾向があるそうです。

つまり今を犠牲にして頑張れる人というのは、将来の自分の姿をリアルな自分ごととして感じられる、そういった特殊な脳を持っているということかなと思いました。

よく自己啓発書で、自分が成功している時の様子をリアルに妄想しなさいというのは、つまり「自分ごと」システムを駆動しなさいということで、案外的を外してないのかなと思いました。

【要約】
およそ49年前、社会心理学者は情報処理の枠組みを認知心理学に取り入れ人々がどのようにして自分自身や他人のことを理解しているかについての説明を試みた。この方法は著しい成功を示しその後の社会心理学研究の方向性を変えるものとなった。そして近年社会心理学者は認知神経科学の方法を社会的な自己認知を知るための方法として取り入れた。彼らの研究から自己や他者の認知には内側前頭前野が関係することが示された。本稿はまず社会的認知に関する歴史的背景をひも解き、その後自己や他者に関する知識を処理する神経学的基盤について説明を行う。そして後半では自発的な自己認知と他者認知の類似性について述べる。これら全体を通して社会認知神経科学が自己や他者についての知識がどのようなものかについて示してきた新たな知見を取り上げる。

参考URL:The Representation of Self and Person Knowledge in the Medial Prefrontal Cortex.

コメント

少し詳しく書くと

脳にはシミュレーション全般に関わるシステムが有り、これはデフォルトモードネットワークと呼ばれています。

自分のことや他人のこと、いろんなことを妄想するときに働くのですが、その中でも重要な領域として内側前頭前野というものがあります。

この内側前頭前野は背側領域と腹側領域に分けられ、背側は他者の認知に関係しやすく、腹側は自己の認知に関係しやすい、

というのも背側は海馬やワーキングメモリといった認識系領域との結び付きが強く、腹側は情動システムである辺縁系との結び付きが強い、そういった構造があるためのようです。

つまり背側が「他人ごと」、腹側が「自分ごと」として働く傾向があり、往々にして人は漠然とした将来を考えるときにはこの「他人ごと」システムが駆動する傾向があり、これが行動経済学でいう時間割引の背景になっているのではないかということです。つまりご褒美をご褒美として感じられない。

ところが将来のために今を我慢できる人の脳を覗いてみると、将来のことを考えるときもこの「自分ごと」に関わる腹側領域が活動することが示されるようです。

逆説的ですが、人間経験したことがないことは想像ができない、もし何かを成し遂げたかったら、成し遂げた人の真似をしたり、成し遂げた人と関わるというのは「自分ごと」システムを駆動するために大事なのかなと思いました。

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします