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アイデンティティと脳科学

アイデンティティがあるとかないとか言われますが、このアイデンティティというのは脳科学的に考えるとどういったものなのでしょうか。

アイデンティティというと顔ととか性格とかいろいろありますが、一つ考えられるのは自分の顔を見た時脳がどう反応するかということでしょう。

自分の顔を見た時に脳が特別な反応を示す、こういったことがあれば、これはその人のアイデンティティに関わる脳活動と考えることが出来るかもしれません。

もう一つは自分のことをあれこれ聞いている時の脳活動でしょう。

自分は強くて体力があってお金持ちだと考えているとしたら、この人は「強い」「パワフル」「お金持ち」というキーワードを見たり聞いたりすれば脳が強く反応するでしょう。

つまり、あるキーワードで特別な脳活動が引き起こされるとしたら、これもその人のアイデンティティに関わる脳活動ということができるでしょう。

今日取り上げる論文はこのアイデンティティに関わる脳活動を探ったものです。

いろいろな議論はありますが、ヒトの脳というのは自分の顔を見るときも、自分のことを言われている時もどちらかというと右脳が強く反応する傾向があるそうです。

今回の実験でもやはり自分の性質(強い、優しい、金持ち、もてる・・)を言われている時には右脳が強く活動したのですが、

面白いことにこれは絶対に自分のことではないというキーワード(弱い、冷たい、貧乏、異性に相手にされない・・)でも右脳が強く活動し、

どちらでもないような言葉というのはそれほど右脳が強く活動しなかったことが示されています。

こういったことからアイデンティティ、いわば自己の輪郭といったものはそうであることとそうでないことの二種類からなっているのではないかということが述べられています。

 

【要約】
近年示された多くの研究から、右半球には自分の顔の認識に関わる神経基盤の他に自己表象そのものに関わる高次の神経基盤があることが示唆されている。今回の実験では局所的で単発のTMS(経頭蓋磁気刺激)を用いて自分の性格に関連する言葉を読んでいる時の脳活動について調査を行った。仮説として右半球が左半球に比べ自分の性格を示す言葉を読んだ時に強く反応することが考えられた。結果、自分の性格を示す言葉を読むことで右半球支配の運動が惹起された。さらに自分の性格と関連が殆ど無いと判断された言葉の提示でも、右半球の強い活動が認められた。これは自分の性格との関連が強いと判断された言葉の提示と同程度であった。これらの結果から右半球が自分に関連した情報の処理と情動的な刺激に関与することが考えられた。

参考URL:Right-hemisphere motor facilitation by self-descriptive personality-trait words.

コメント

言葉の意味というのは否定によってつくられるものらしい。

今自分の子供は四足の動物を全部「ワンワン」と呼んでいるが

巨大な体格の動物ははワンワンではない、首の長い動物はワンワンではない、ワンワンとなかない動物はワンワンではない、立って歩くことが出来る動物はワンワンではない・・・・というふうに「~でない」というワードによって、はじめてワンワンが切りだされていく。

これはリンゴでもそうだし、パパという言葉でもそうなんだろうけど、否定によってはじめて意味が切り立ってくるというのが言葉の本質なんだろうと思う。

「わたし」という言葉も「貧乏でなくて、皆に嫌わることがなくて、異性にも相手にされることがなくて、弱いということがなく、怠け者ということがない」というふうに定義されているとしたらやはり、「これ自分と全然関係のない言葉だよ」という言葉ほと自己認識システムを駆動するということもあるだろう。

私達はある意味否定によって自分を構成しているのかなと思いました。

 

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