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パニック障害、認知行動療法、エピジェネティクス

パニック障害というのは花粉症のようにある日突然発症するもののようですが、このようなことが起こる背景には遺伝子のエピジェネティクス的変化があると考えられています。

私達の遺伝子は、身体を維持する餓えで必要なものを必要なだけ作る働きがありますが、

精神的なストレスや身体的なストレスが積み重なると、遺伝子の一部が少しずつ変わってしまい、

身体を保つために必要なものを十分作れなくなったり、あるいは作りすぎて身体に害を与えてしまうことがあります。

こういった変化はエピジェネティクスと呼ばれ、遺伝子の中でも特定の領域にメチル基がくっついたり(メチル化)、離れたりすること(脱メチル化)で引き起こされるものですが、

様々なストレスによって変わってしまった遺伝子というのは再び元通りになることができるのでしょうか?

今回取り上げる論文は、パニック障害患者に認知行動療法を行うことで、遺伝子がどのように変化するのかについて調べたものです。

この研究ではパニック障害と診断された患者57名を対象に、6週間に渡る認知行動療法を行い、その前後で遺伝子がどのように変化したかについて調べています。

認知行動療法については、専門のセラピストが担当し、毎回90分に渡り行われ、さらに被験者は毎週課題として100-240分の暴露療法を行うよう指示されました。

また心理的評価についてはハミルトン不安評価尺度を使って、このスコアが50%以上低下したものについては改善群、50%に満たなかったものについては非改善群として評価しています。

結果を述べると、認知行動療法を受けて心理的に改善した群は、遺伝子の中でも炎症反応を促進するタンパク質(インターロイキンI受容体)に関わる異常な変化が正常に近づいていたことが示されています。

つまり炎症反応が過剰に反応するような体質が改善する方向に変化していたことが示されています。

パニック障害というと、ココロの問題のような気がしますが、実際のところその基盤にあるのは免疫反応というヒトの生存システムの根幹にあるのかなと思いました。

【要旨】

パニック障害(PD)では、候補遺伝子のDNAメチル化のようなエピジェネティックメカニズムが、遺伝的因子と環境因子の交差において重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし、エピゲノム全体のレベルでは、これまでにPD患者を対象とした2件の研究が発表されたにすぎないが、DNAメチロームレベルでのPDの治療反応の動的エピジェネティック相関を個別に分析した研究は今のところ存在しない。本研究では、PD患者57例のエピゲノムワイド関連解析(EWAS)を実施し、Illumina MethylationEPIC BeadChipを用いて対応する健常対照群を対象とし、PD患者のマニュアル化した6週間の認知行動療法(CBT)の臨床効果に対応するDNAメチロームレベルの変化を縦断的に評価した。エピゲノム全体に有意なヒットは認められなかったが、Cilia and Flagella Associated Protein 46(CFAP46)遺伝子のcg199903におけるPDのメチル化の低下、およびCBTに対する治療反応者におけるインターロイキン1受容体タイプ1(IL1R1)遺伝子のcg694368におけるCBT後のメチル化の増加を示唆する最大の証拠が観察された。生物学的妥当性および統計学的/生物学的ランキングの組み合わせに基づくさらなる探索的解析により、CCL4L1またはGMNN遺伝子などの新たなPDリスク遺伝子の可能性がさらに高まり、CBTへの反応とともにZFP622およびSLC43A2遺伝子などの動的メチル化が示唆される。これらのEWASおよびPDにおける最初の縦断的なエピゲノムワイドなパイロットデータは、エピジェネティックな機序がPDの病因に関与しており、治療介入の動的な生物学的相関を構成している可能性があるというエビデンスの新たな候補遺伝子ベースの本体に追加される。

【参考文献】

Ziegler, Christiane et al. “The DNA methylome in panic disorder: a case-control and longitudinal psychotherapy-epigenetic study.” Translational psychiatry vol. 9,1 314. 21 Nov. 2019, doi:10.1038/s41398-019-0648-6

 

 

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