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パニック障害と免疫反応

パニック障害というのは、ある日突然やってくるそうですが、

近年の研究からは、パニック障害患者では後天的に遺伝子が変化していることが報告されています。

このような後天的な変化は身体的・精神的ストレスが加わることで引き起こされると言われており、

その機序としては、遺伝子の特定の部分にメチル基と呼ばれるものがついたり離れたりすることが考えられています。

このメチル基が多くくっついていると(メチル化)、その遺伝子がコードしている特定の物質(セロトニンや白血球などの各種免疫細胞)が作られづらくなり、

少なくくっついていると(脱メチル化)、その遺伝子がコードしている特定の物質が過剰に作られるということがあるようです。

今回取り上げる論文は、パニック障害患者を対象に遺伝子解析を行い、どのような遺伝子変化がパニック障害と関連しているかについて調べたものです。

Epigenome-wide association study of DNA methylation in panic disorder

この研究ではパニック障害と診断された成人男女48名と対照群48名を対象として行われ、

それぞれの遺伝子の広範な領域を対象に解析を行い、どの領域の遺伝子にどれくらいメチル化が進んでいるかについて調べています。

結果を述べると、明確にパニック障害と関連した領域は見られなかったのですが、

パニック障害患者では、免疫のコントロールに関わる領域、具体的にはリンパ球の活性化を促す領域に変化が見られており、

免疫反応に関わる白血球を多く作り出すように遺伝子が変化(低メチル化)していたことが述べられています。

これとは別の研究ですが、パニック障害ではアレルギー性鼻炎を併発しているものが多いとの報告もあり、

Allergic rhinitis increases the risk of incident panic disorder among young individuals: A nationwide population-based cohort study in Taiwan

やはりパニック障害とアレルギー体質というのは、なにか関連しているのかなと思ったり、

ここから先は私の妄想ではありますが、パニック障害とアレルギー体質が同じ機序(過剰な免疫反応)に基づいているのならば、免疫を整えるようなアプローチというのは、パニック障害にも何かしら意味があるのかなと思いました。

体の仕組みは難しいです。

【要旨】

背景
パニック障害(PD)は、複数の遺伝的要因と環境要因の間の相互作用から生じる多因子障害であると考えられています。現在まで、遺伝学的研究ではPDを伴ういくつかの感受性遺伝子が報告されていますが、それらのいくつかは複製されておらず、PDの病因はまだ解明されていません。エピジェネティクスは、複雑な特性や疾患の病因において重要な役割を果たすと考えられており、DNAメチル化はエピジェネティックな修飾の主要な形態の1つです。この研究では、さまざまなレベルのDNAメチル化がPDに関連している可能性を調査するために、DNAメチル化アレイを使用してPDのエピゲノムワイド関連研究を実施しました。

方法
ゲノム全体のCpG部位のDNAメチル化レベルは 、末梢血から抽出されたゲノムDNAサンプル(PD、N  = 48、対照群、N = 48)で調べられました。分析にはメチル化アレイを使用しました。DNAメチル化のレベルを表すβ値は、適切なパイプラインを介して正規化されました。次に、エピゲノムワイド関連研究のために、ロジット変換を介してβ値をM値に変換しました。各DNAメチル化部位とPDの関係は、白血球サブセットの影響を調整した線形回帰分析によって評価されました。

結果
DNAメチル化レベルの差は比較的小さかったものの、40のCpG部位が5%のFDR補正でPDとの有意な関連を示しました。重要なCpGサイトのほとんど(37/40 CpGサイト)は、CpGアイランド内またはその周辺にありました。重要なCpG部位の多く(27/40 CpG部位)は遺伝子の上流に位置し、2つを除くすべてのそのようなCpG部位はPD被験者で低メチル化されていました。重要なCpG部位に注釈が付けられた遺伝子の経路分析により、「リンパ球活性化の正の調節」を含むいくつかの経路が特定されました。

結論
PDに関連する小さなDNAメチル化異常を確認するには、より多くのサンプルを使用した将来の研究が必要ですが、いくつかのCpG部位がグループとしてPDに関連している可能性があります。

【参考文献】

Hsieh, Men-Ting et al. “Allergic rhinitis increases the risk of incident panic disorder among young individuals: A nationwide population-based cohort study in Taiwan.” Journal of affective disorders vol. 252 (2019): 60-67. doi:10.1016/j.jad.2019.04.037

Shimada-Sugimoto, Mihoko et al. “Epigenome-wide association study of DNA methylation in panic disorder.” Clinical epigenetics vol. 9 6. 21 Jan. 2017, doi:10.1186/s13148-016-0307-1

 

 

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