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祈りが痛みになぜ効くのか?

私達にはいろんな感覚がありますが、痛みというのは非常に大事な感覚になります。

この感覚があるので私達は体を休めたり危険から身をそらしたりできるのですが、

この痛みも度を過ぎると、神様に祈ってどうにかしてほしいと思うこともあります。

では、この神様への祈りというのは本当に痛みの軽減に効果があるのでしょうか?

今回取り上げる論文は、祈りの痛み軽減への効果と、その脳活動について調べたものです。

方法

・対象となったのは身体的に健康で、プロテスタントへの信仰が厚い成人男女28名

・実験では、プロテスタントの宗教的な祈りと、宗教的でない一般的な祈りの効果が比べられた。

・痛みは電気刺激で与えられた。痛みの強度は被験者が最大我慢できる痛さの80%の強度とした。

・内因性オピオイド(脳内麻薬)の影響を調べるために、オピオイド拮抗薬(オピオイドの効果を低下させるもの)もしくはプラセボで食塩水が注入された。

・痛みの評価は、疼痛強度と疼痛不快感で評価された。

・一連の課題は機能的MRIの中で行われ、祈っている時の脳活動が測定された。

結果

宗教的な祈りは、非宗教的な祈りと比べ、疼痛強度が11%低下し、疼痛不快感は26%低下した。

・オピオイド拮抗薬と食塩水では、痛みの感受性に影響を与えなかった。

・宗教的な祈りと非宗教的な祈りでは、疼痛軽減効果において脳活動に明瞭な差異は見られなかった。

・全体的に比較すると、非宗教的な祈りでは、右前頭頭頂ネットワークの活動が高くなる傾向が見られた。

考察

・宗教的な祈りによって疼痛が軽減することが示された。

・オピオイドの働きを抑えるオピオイド拮抗薬を用いても痛みの軽減が変化しなかった。

・そのため祈りによる疼痛軽減効果には、祈りによる内因性オピオイド(脳内麻薬)の増加は関係していないと考える。

・非宗教的な祈りでは前頭頭頂ネットワークの活動が高いことが示されたが、これは慣れ親しんだ宗教的な祈りと異なり、慣れない方法での祈りが、実行機能への負担を要したことが考えられた。

個人的考察

宗教的な祈りと、宗教とは関係のない祈りで、痛みの軽減にどれほど違いがあるかについて調べたものになります。

宗教的な祈りでより痛みの軽減が顕著というのは、なんとなく想像できますが、興味深いのは、それがランナーズハイで見られるような脳内麻薬の影響ではないことと、

また痛みの変化と関連した明確な脳活動の違いが示されないということです。

少し話が横道にそれますが、私達の脳は、理性的な脳と感情的な脳が綱引きをしていて、どちらかが強くなるとどちらかが弱くなるという関係性で動いています。

私達はしばしば感情的になりそうな場面では、意識的に理性的な脳を働かせて、感情的な脳を抑えることがあります(手のひらに5回人の字を書く、など)。また理性的な脳が働くほど痛みも軽減しやすいという研究も数多くなされています。

しかしながら、この実験では、理性的な脳の働きが弱くなっている(前頭頭頂ネットワークの活動が低めの)宗教的な祈りのほうが、痛みがより低下しているというところがまた不思議なところです。

私達が感じる世界というのは、単純な脳活動だけには還元できないのかなと思ったり、あるいは主観と脳活動の間には、未だ知られていないメカニズムがあるのかなと思ったりしました。

【参考文献】

Elmholdt, Else-Marie et al. “Reduced Pain Sensation and Reduced BOLD Signal in Parietofrontal Networks during Religious Prayer.” Frontiers in human neuroscience vol. 11 337. 28 Jun. 2017, doi:10.3389/fnhum.2017.00337

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