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なぜあなたは努力するのか?心理学的考察

その昔、ある人工知能開発に携わる方から、感情アルゴリズムを見せていただいたことがあります。

喜怒哀楽を始め様々な感情が曼荼羅のように記されているのですが、思い違いでなければ、その両極には「快」と「不快」があったと思います。

人間の感情はいくつもありますが、突き詰めて考えれば、その根源は快と不快であり、

それゆえ人間が織りなす様々な行動も、快を求め、不快を避けることから生じていると考えることができます。

さて、私達は人生の様々な局面で時間と体力、気力を使って努力する場面が出てきますが、

あなたが努力しているのは快を求めてでしょうか?

それとも不快から逃げたいがためでしょうか?

今回取り上げる論文は、うつ病患者がなぜ努力するのかについて探ったものになります。

方法

対象:

入院及び外来のうつ病患者62名(入院17名、男性26名、平均年齢44.3歳)

評価方法:

①Striving to avoid inferiority scale (劣位を回避するための努力尺度):

被験者が行っている努力が不安を避けるためのものなのか、そうであれば、それはどの程度のものなのかを評価した。評価尺度はを用いた。例として「他人から劣っていると見られたくないので努力する」など。

②Social comparison scale(社会比較尺度)

自分が社会的にどのような地位にいるかについての自覚的判断を求めるもの。

③Submissive behaviour scale(従属的行動尺度)

自分の意志に反してどれだけ従属的な行動を取りやすいかを評価する尺度。

④The other as shamer scale (恥辱者としての他者尺度)

他人からのネガティブな評価をどの程度気にしているのかを評価する尺度

⑤Experiences in close relationships scale(近接的な関係での経験尺度)

愛着障害(愛着不安)を評価するための尺度

⑥Depression anxiety and stress scale(うつ病・不安・ストレス尺度)

うつ病と不安、ストレスを評価するもの

⑦Self-harm inventory(自傷行動調査票)

自傷行動の頻度について調べるもの

解析方法

各項目感の相関分析、重回帰分析、媒介分析を行った。

結果

相関分析

・他者からの恥辱を感じやすいものほど、不快な状態を避けるために努力する傾向が高いことが示された。

・自分の地位が低いと感じたり、他者から拒絶されることを恐れる気持ちが強い場合、不快な状態を避けるために努力する傾向が高いことが示された。

・愛着不安が高いものほど、不快な状態を避けるために努力する傾向が高いことが示された。

重回帰分析

・不快な状態を避けるための重要な因子が、他者から感じる恥辱感であることが示された。

・ストレスの因子としては、愛着不安と不快な状態を避けるための努力であることが示された。

媒介分析

・愛着不安が、不快な状態を避けるための努力とうつ病の間を媒介していることが示された。

考察

・人間は不快な状態を避けるために努力することがある。

・この不快な状態とは他者から軽んじられたり、社会的劣位に置かれたり、他者からネガティブな評価を受けることである。

・うつ病患者を対象にした調査から、このような不快な状態を避けるための努力は、恥辱感が強く影響すること、また愛着不安が、不快な努力からうつ病に至る過程に影響していることが示された。

・過度な競争システムは、社会参与者の精神的負担を高め、ストレスを増加させ、精神疾患を引き起こすリスクが有る

ということが述べられています。

私的考察

総じて述べると、人が行動する原動力はどうも恥の感覚と社会的排斥への恐怖のようです。

ヒトは努力する生き物で、それ自体は否定も肯定もしませんが、社会的な不安感から競争に駆り立てられ努力するのは、あんまりヒトを幸せにしないのかなと思いました。

加えて、愛着不安が高い人、いわゆる愛着障害を抱えてそうな人は、やはり過剰に頑張って燃え尽きてしまいそうな気がして、

何かを頑張る時に不安をテコにするのは、たとえ努力で何かを得たとしても根本的な不安の解決にはつながらず、方向性としては微妙だなと思いました。

【参考文献】

Gilbert, Paul et al. “The dark side of competition: How competitive behaviour and striving to avoid inferiority are linked to depression, anxiety, stress and self-harm.” Psychology and psychotherapy vol. 82,Pt 2 (2009): 123-36. doi:10.1348/147608308X379806

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