前頭眼窩野は視覚認知にどのように関わっているのか?
予習復習が大事とは言われますが、予習が大事なのはなんででしょうか。
講習会なりセミナーなりに出かけるにしても、事前に予備知識があるのとないのでは大分頭の入り方が違う。
完全に理解しておく必要もないけど、ざっくり理解しているだけでも本番の理解というのは大分違ってくるのではないかと思います。
今日取り上げる論文は視覚認識についてのものなのですが、脳が視覚認識処理をするときに、この予習的なシステムがあるかどうかということを調べたものです。
ここでいう予習的なシステムとは何でしょうか?
従来の古典的な考え方では、脳の情報処理というのは階段を登ってくるように、ヒト段階ずつ、直線的に、ボトムアップ的に処理されるという見方が強かったそうです。
つまり
網膜→・・・→ 一次視覚野→二次視覚野→……→下側頭葉
図で言うとこんな感じだと思います。
でもこれだけではなくて、先に下側頭葉に予習させておくようなルートもあるのではないかというのを調べたのが今日の論文です。
具体的には
網膜→・・・→ 一次視覚野→二次視覚野→……→下側頭葉
だけではなくて
網膜→・・・→ 一次視覚野→二次視覚野→……→下側頭葉
↓ ↑
→→→→前頭眼窩野→→→→→→→→→→
というものです。
いちいち視覚野を抜けていかなくても、直接前頭眼窩野を抜けて下側頭葉へ抜けていいくルートがあって、ここが普通の経路よりも先回りして下側頭葉を先に活動させ、後続の反応を高めているのではないかということが述べられています。
この図がわかり易かったです。
OFC:前頭眼窩野
Fusiform:紡錘状回
Ventral Visual Stream:腹側視覚経路
【要旨】
「従来の考え方では、視覚的な対象認知は、直線的に、かつボトムアップ的に皮質の腹側経路になされるものと考えられてきた。近年、視覚認識にはボトムアップだけではなく、トップダウンによる要素もあることが報告されているが、そのメカニズムについては明らかにされていない。今回低空間周波数の画像を見せた時の視覚認識関連活動を脳磁図と機能的MRIを併用して計測を行った。結果、低空間周波数の画像を見せ認識可能であった時には左前頭眼窩野が側頭葉の視覚認識領域より50ミリ秒先行して活動していた。このことから前頭眼窩野が視覚認識にトップダウン的に関わっていることが考えられた。」
参考URL:Top-down facilitation of visual recognition.
コメント
何かを認識する時、情動処理に関係する前頭眼窩野の働きが先に回っているとしたら
何かを見るときにはすでに感情の色が付いているということで
色眼鏡なしでものをみることはできないということになるのだろうか
何かを認識するという行為は情動無しで成り立たず、コンピュータがヒトのようにクオリアをもって認識できるとしたら情動を組み込まなければならず
情動の源泉が内臓系を含めたbodyだとしたら
クオリアを持った認識が成り立つためには内臓やら内分泌系やらいろんなシステムがないといけないのだろうか
そう考えると計算回路をいくら発達させたコンピュータがこの先出てきても、bodyも含めたシステムがなければ「こころ」といわれるものを再現できないのか、そんなことを考えました。
「知覚」とか「認識」ってなんなんだろうと思います。
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