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「わからないけどわかる」の脳科学:情報の皮質下処理とは?

優れたサッカー選手とベテランの板前さんには共通する要素があると思います。

どちらも非意識的に身体を動かせているという点です。

サッカー選手というのはフィールドのすべてを明瞭に認知しているわけではない。

横や後ろ、あらぬ方向からボールが飛んできても、あたかもそれを見ていたかのように上手に身体をさばき対応することが出来る。

ベテランの板前さんであれば、同時進行で揚げ物、焼きもの、仕込みのマルチタスクを5,6個並行して裁くことが出来る。

目は里芋の皮むきに向かっていても、焼き物に火が入れば、すっと火を止め、揚げ物があがればさっと取り上げる。すべてを意識しているわけではないけど、身体がめまぐるしく変わる状況に即応してきちんと動いてくれる。

サッカーのフィールドにしても板場にしても、状況はめまぐるしくかわり、意識はそれらすべてを認識する手立てを持たない。

にも関わらず、身体は動く、「分からないけど、分かっている」という不思議な状態になっている。

これと似たような感じで「分からないけど、なんかいやだ」

ということもあるのではないかと思います。

「分からないけど、なんかいやだ」

そんな写真をよくみてみると、背景に自分の嫌いな人が入っていたり、あるいはうっすらと背後霊のような映像がうつっている。

そんな写真というのは「分からないけど、なんかいやだ」というような感情を運んでくるのではないかと思います。

この2つに共通するのは「分かっていないけど、動ける、感じられる」といった部分ではないかと思います。

「分かっていないけど、分かる」これはどういうわけでしょう。

こういった働きの背景には視覚野を通らない皮質下の情報処理が働いていると言われています。

今日取り上げる論文はこの皮質下の情報処理について解剖学的に詳しく調べたものです。

実験ではリス科の動物を調べたのですがそれによると

網膜から入った情報は中脳の上丘を抜け視床枕に入ってきます。

この視床枕から抜けていくルートが2つあって、ひとつは恐怖情動に関わる扁桃体に抜けていくもの。

もう一つは運動の調整に関わる線状体、被殻に抜けていくもの、この2つのルートがあるそうです。

つまり、

網膜-中脳上丘-視床枕-扁桃体
         |
        線状体/被殻

で無意識下の運動あるいは情動反応が引き起こされることが示されています。

【要旨】

「意識的に視覚認知していない状況でも身体が視覚刺激に対応して動くことがある。このような現象は盲視と関連して取り上げられる。また似たような現象として視覚対象を意識していない状況でも恐怖対象に何らかの情動反応を示すことがある。このような反応は網膜から上丘を通り視床枕を経由して起こりうると考えられている。このような非意識的な反応に関わる経路を精査する目的で、今回哺乳類の原型動物ともいえるツパイ(リス科の動物)を対象に視床枕に関わる神経構造について調査した。ツパイは巨大な視床枕核を有している。またこの視床枕核上丘に対応する2つの領域がある。これはそれぞれ背側と中央部のものであるが、この2つの視床枕核は上丘から明瞭で形態的な情報と、不明瞭で非形態的な情報の両方の連絡を受ける。また神経染色の結果からはこの背側と中央府の視床枕両方が尾状核と被殻に連絡しているが、背側の視床枕のみが扁桃体に連絡していることが示された。またこれらの視床枕-線状体経路、あるいは視床枕-扁桃体経路は最終的に脊髄出力細胞に連絡していることが示された。このことから視床枕からの連絡は最終的に脊髄細胞に出力していることが考えられた。以上のことから明瞭で形態的な情報は上丘を通り視床枕、線状体を経由して正確な動作の誘導につながり、また不明瞭で非形態的な情報は視床枕、扁桃体を経由して、個体に潜在的な恐怖情報に対応するよう働きかけることが考えられた。」

参考URL:Pulvinar Projections to the Striatum and Amygdala in the Tree Shrew



コメント

本当はもう少し詳しいことを書いてあるのですが、興味のある方は抄録部分をご参照ください。

もともと自分はあまり器用に立ち回れないほうなので

状況に応じて笑顔で器用に立ち回っている人を見ると

嫉妬に駆られ、カタチだけで何も考えていないくせに、皮質下ニンゲンめ、などと思ったりすることもあるのですが

本当のところは何も考えない皮質下ニンゲンになりたかったりします(-_-;)

罪も悩みも大脳皮質で考えるところから始まるんだろうと思います。

 

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