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ブローカ博士の古典論文

今日取り上げる論文は150年以上前の古典論文で、ブローカ野で知られるブローカ博士のものです。

格調高い文章で読むのが大変でしたが、「4」に見られるように現在のシステム論的な脳機能の捉え方についても言及しており、いま読んでもあまり古い内容とは思えませんでした。

症例タン氏の剖検の結果が記されているのですが、いわゆるブローカ野だけでなくシルビウス裂全体にわたって変性していることが記載されています。

【要旨】

1.本症例で見られた運動性失語症とは発話ができなくなった状態であるが、これは前頭葉の一部の損傷に由来するものと思われる

2.それ故今回の我々の知見は口頭言語の能力を同部位に置いたBouillaud氏の意見を肯定するものである。

3.今現在集められた知見は、解剖学的に明確かつ正確なものではあるが、言語機能を特定の領域に関連付けるには量的に不十分である。しかしながらこれらの領域は口頭言語機能と関連する可能性は十分に高いと推察される。

4.口頭言語機能の座が前頭葉全体にあるか、あるいは前頭葉の一部の脳回にあるかについては、その判断は難しいと思われる。言い換えるならば、一つの機能に対応した一つの領域があるのか、あるいは複数の機能に対応した複数の領域の集合があるのかについての判断は難しいと思われる。この問題を解決するためにもさらに多くの知見が示される必要があると思われる。疾患に関わる脳回の部位と名前を正確に示し、もし関係する領域が広いものであるならば、解剖学的検証によって、原因部位を特定する必要がある。

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5.今回の症例では原因部位は前頭葉の第二または第三脳回であると思われるが、とりわけ後者である可能性が高い。それ故、口頭言語機能の座はこの二つの脳回のいずれかの部位であると思われる。しかしひとつの機能に一つの脳回が対応するという局在主義には明確な論拠がない以上、この知見は断定はできないものである。

6.いずれにせよ、私達の知見と近年廃れた骨相学の見方-ある機能は頭蓋隆起の下の特定の部位、特定の領域に存在する考える見方-を比べることも出来る。運動性失語症の責任領域は従来眉から遠くない前頭葉の最前部、あるいは眼窩弓上にあるとされていたが、今回の症例では冠状縫合の前方近くに見られた。この事実は骨相学の理論とは矛盾するが、脳回に機能が局在するという考え方には矛盾しない。なぜならこの前頭葉に見られる3つの大きな脳回は前方から後方へのつながりを持つ連続したものであり、現在ではこのすべての領域が運動性失語症に関わることが知られているからである。

参考URL:Remarks on the Seat of the Faculty of Articulated Language,Following an Observation of Aphemia (Loss of Speech)


コメント

この論文を見て、一つの症例を深く深く掘り下げるのってとても大事なのだろうなと思いました。

タン氏という一症例から失語症のモデルを考えたブローカ氏でもないのですが、理論と臨床をつなげる、見えるものと見えないものをつなげられるそんな仕事をしたいものだと思います。

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