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脳の中の中核自己とは何か?

普段病院でいろんな認知症の患者さんを見ていても「わたし」という感覚は最後の最後まで残っているような気がします。

生まれた場所を忘れ、鏡に写った自分の顔を忘れ、自分の子供のことを忘れても、最後の最後まで「わたしはわたし」という感覚は失われない。この「わたし」という概念は脳のどのへんでどのように処理されるのでしょうか。

この「わたし」感覚ですが、一言に私と言ってもその内容は様々です。

手足がいま、ここに、こういうふうにあるという身体的・空間的認知や

自分はこんな風にして生きてきたという自己歴史的な認知や

自分はこういうキャラだよねという自分の性格に関する認知や

なんかこの匂いを覚えているなという感覚記憶的な自己認知や

まあ、あれやこれやあるとおもうのですが、今日取り上げる論文はこの自己認知について調べた研究のメタアナリシスになります。

結論を述べると自己認知は三層構造でなされているということです。

これを図示すると

外側皮質:高次処理(自伝的、感情的、空間的、言語的自己)
    ↑
内側皮質:自己参照的処理(中核自己)
    ↑
感覚皮質:感覚処理(原自己)

というふうになっていて

この中でも中核自己をつくる内側面皮質がもっとも重要なこと、またこの領域は皮質下の領域とも密な連絡構造を持っており、皮質と皮質下で情報をぐるぐるやりとりして中核的な自己を練り上げる領域であるため、この領域が自己認識の根幹になっているということが述べられています。

【要旨】

自己とは一体どういうもの出るかという議論は哲学者や心理学者によって長い間議論されてきた問題である。近年神経科学分野で自己に関する概念が提唱さているが、これが脳の各領域の活動がどのように関係しているかについては明らかにされていない。本研究は過去になされた自己に関する情報と自己以外の情報の処理の差異について調べられた研究を総括したものである。自己認知に関するすべての研究で自己認知に伴う脳の内側面の活動が認められた。この脳の内側面の活動は自己に関する様々な情報(言語的情報、空間的情報、感情的情報、顔情報)に関与して認められた。クラスター分析を行ったところ、この脳の内側面の活動は腹側、背側、後部の三領域に分けられ独立して活動していることが示された。これらのことから自己に関する情報処理には脳の内側面の構造が関与していることが示された。この脳の内側面構造は皮質下と密な相互連絡を持っており、それゆえこの領域が自己認識のベースになっているのではないかと考えられた。結論としてこの脳の内側面領域が自己認識に重要であり、感覚としての自己経験を作り上げていると考える。

参考URL:Self-referential processing in our brain--a meta-analysis of imaging studies on the self.

コメント

アルツハイマー病で認知症が本当に重度な人というのは自分の体を動かされるのをとても嫌う傾向があると思います。

麻痺があるとかないとかでなく、運動機能と関係なく、認知症の重症度と比例して自分の体を動かされるを嫌がる、「触るな!」「動かすな!」「自分でやる!」というのはよくある光景だと思うのですが

これはこの三層構造で言う感覚的な原自己と関係があるのかなと思いました。

自分の顔を忘れ、生まれた場所を忘れ、家族を忘れ、自分が今いる場所を忘れ、自分がどう生きてきたのかを忘れ

そんな状態でも「自分」というものをかろうじてつないでいるのが、体の感覚としての「自分」で、そこで精一杯自分というものを狭い点の上に立つようにキープしているとしたら

やはりカラダを動かされるというのは、自己が崩れるような感じとつながって、あれほどまでに強い拒否に繋がるのかなと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

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