「ブローカがヤヌス的症状を示すとき:事象関連機能的MRIを使用した文章を理解している時と文構造を認知的に処理している時の比較」
ヤヌスというのは古代ローマの神様だそうで表と裏の2つの顔を持っているそうです。一つの顔は未来へ向かっていて一つの顔は過去を向いているということから、物事の両義性、二面性を示す代名詞として「ヤヌスの顔」ということばがあるそうです。
今日取り上げる論文は言語中枢であるブローカ野が「ヤヌスの顔」的な性質を持っていることを示したものになります。
そもそも文を理解できるということがどういうことかというとこれには大きく分けて二つの働きが必要ではないかと思います。
一つは言葉の意味がわかるというもので、これはたとえば「昨日研究計画発表の日程が決まって慌てふためいた」という文章であれば、当然「研究」「発表」「日程」などのことばを理解できなければいけない。こんなふうに言葉の意味を処理するシステムが一つ。
では言葉だけわかっていればいいかというと文章の骨組みも分かっていなければ文章は理解できないわけで
「私は先行研究を読む」
「佐藤は牛肉を食べる」
「その理学療法士は漢方薬を飲む」
という文章が理解できるのは頭のなかに「AはBをCする」という構文処理構造がしっかりあるからすいすい入ってくるわけで、単語は分かっても文章が読めないというのは構文構造が頭のなかでしっかり処理されきれないからというふうにも考えることができます。
前置きが長くなりましたが、文を理解するためには「ことば理解システム」と「構文理解システム」の両方が必要で、ブローカ野というのはこの両方のシステムの末端にあたるそれぞれの領域があるのではないかということが述べられています。
ポイント
本研究では事象関連機能的MRIを使用して文章の意味を理解している脳活動と文章の文法的構造を理解してる時の脳活動の相違について研究を行った。
結果、ブローカ野を含む左前頭前野において意味理解と構造理解で異なる領域がそれぞれ活動していることが示され、これは文章処理における二重処理過程仮説と重なる結果となった。
これらのことから一つの仮説としてブローカ野の44野と45野は異なる働きをしていることが考えられ44野は文章の構造的理解に関わり、45野はオンライン的に意味処理に関わりながらその内容を構造的制約に統合する働きに関わっていることが考えられた。
補足コメント
ブローカ野の二面性についてですが、
少しややこしい話で恐縮ですが、視覚処理には二重経路があることが知られています。
すなわち背側経路と腹側経路でそれぞれ視覚情報の「形」と「意味」の処理を行うものですが
この二重経路にあたるものが文の処理においても存在し、すなわち形(構文)処理と意味処理の二つがあって、
視覚野や聴覚野からひとつづきのルートとしてつながっていて、その末端がそれぞれブローカ野の二つの領域にひょいと出るような感じで
この動画が分かりやすいです