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なぜ森の中を歩くと幸せになるのか?

森林浴という言葉はツナミと同じように国際語になりつつあるというような話を聞きますが、

私達人間は好んで自然の中に入っていきたがる性質があります。

こういった行動を取る背景には、自然と触れ合うことで幸福感が増すことがあると思うのですが、

果たして自然環境のどのような要素が幸福感につながっているのでしょうか?

また自然環境とどのように触れ合うことで幸福感が増すのでしょうか?

今回取り上げる研究は自然環境への関わりと幸福感の関係について具体的に調べたものになります。

研究方法

イギリスには、国で整備された自然歩道があり、そこを歩く人も大分多いそうなのですが、

この研究では、その自然歩道を歩く人を対象に、自然環境のどのような要素が幸福感に寄与したか、

またどのような歩き方が幸福感に寄与したかについて調べています。

対象になったのは、自然歩道でのグループウォーキングイベントに参加した55歳以上の男女160名で

・歩行時間

・歩行強度

・歩道で感じた自然の度合い

・歩道で感じた鳥の多様性

・歩道で感じた蝶の多様性

・歩道で感じた植物の多様性

・歩行で得られた回復感

・歩行後の幸福感、ポジティブ感情、ネガティブ感情

についてアンケート方式で調査しています。

研究結果

結果を述べると、全体的に自然歩道を歩いたあとは、回復感を感じて幸福感が増すこと、ポジティブな感情が増えること、ネガティブな感情が減ることが示されており、

自然環境の中では、鳥の多様性を高く感じるほど、回復力を感じて、幸福感やポジティブな感情につながるにつながることが示されています。

また歩行強度が強いほど、回復力につながること、幸福感を増すことも示されています。

なぜ鳥の多様性が回復感につながるのか?

ではなぜ鳥の多様性が高いことが回復感につながったのでしょうか?

一般に精神的な回復は、ストレスの原因となる日常生活から離れることで得られると考えられていますが、

鳥が多い自然環境の中で過ごすことで、自然環境の知覚が濃密になり、時間あたりの利得が大きくなるためではないかということが述べられています。

では同じ自然環境の要素でもある蝶や植物の多様性がなぜ回復感につながらなかったのでしょうか?

これについては鳥の鳴き声が識別が容易であるのに対し、蝶や植物の識別は一般には難しいからではないか、ということも述べられています。

では何をすればよいのか?

この研究の結果を見ると、鳥の多様性も大事ですが、もっとも大事な要素は歩行強度であることが示されています。

歩行時間については、この研究で対象になったのが10分から90分のコースであったことを考えると、数時間単位でなくても一定の効果が得られそうに思われます。

こういったことを考えると、少しアップダウンのある地形の中での軽めのハイキングや

あるいは同じランニングをするのであれば、自然を感じられて鳥の鳴き声が聞こえる場所でのもののほうが都会の中を走るよりも幸福感を増すのかな、と思いました。

【要旨】

自然環境は、ポジティブな健康と幸福に関連しています。しかし、幸福とこの関連の根底にあるメカニズムに対する環境の質の影響についてはほとんど知られていません。この研究では、知覚された回復性とその下位項目が、知覚された生物多様性、知覚された自然さ、歩行時間、および知覚された強度が感情的な幸福に及ぼす影響を媒介するかどうかを調査しました。

イギリスの全国ウォーキングプログラムの参加者(n = 127)は 、13週間以内に参加した各グループウォーキングについて、ウォーキング前後のアンケート(n = 1009)に回答しました。マルチレベルメディエーションは、仮定された間接効果を調べました。

知覚された回復性は、知覚された鳥の生物多様性、知覚された自然性、および知覚された歩行強度が、ポジティブな感情、幸福、およびネガティブな感情に及ぼす影響を媒介しました。歩行時間の幸福への影響は、知覚された回復力によっても媒介されました。知覚された歩行強度は、ポジティブな影響と幸福に直接的な影響を及ぼしました。

調査結果は、理論の開発、将来の生物多様性-健康研究、心身の回復に影響を及ぼす環境の設計などの関係者に影響を及ぼします。

【参考文献】

Marselle, M. R., Irvine, K. N., Lorenzo-Arribas, A., & Warber, S. L. (2016). Does perceived restorativeness mediate the effects of perceived biodiversity and perceived naturalness on emotional well-being following group walks in nature?Journal of Environmental Psychology, 46,217–232.https://doi.org/10.1016/j.jenvp.2016.04.008

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