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伊勢神宮近くの宿を寝坊して出る。伊勢神宮の外宮前の国道に出てひたすら商店街を進み、大きな川を渡ったところで古の街道筋に出る。

いかにもな感じの街道だ。その横にはいかにもな感じの典型的な国道筋が古道に沿うように走る。うねうねとした古道はひっそりとし、人が歩く様子もない。ポツポツと歩きながら何故往時は賑わった古道が寂れたかを考えた。

遥か昔、草の葉が踏みしめられ、人が往来する中で恐らく古道は発展して行ったのだろう。うねうねとした道は水捌けが良かったかもしれない。今では狭いと感じる道幅も昔は馬や人が通るために必要十分で最適だったのだろう。時は明治大正、昭和になって、鉄道や自動車が交通の主役になる。街道筋は江戸時代の交通物流システムに最適化されたため廃れたのだろうか。

最適化という言葉は進化や成長と言い換えても良い。かつていたある職場で言われたことがある。理不尽な経験をしてもそれは修行であって成長につながる、それを糧として組織の中でもっと上手くやっていけるようになるのだと。

すかさず、理不尽な文化に馴染むことは成長ではありません、と返した。それは成長ではなく適応のプロセスでしょうと。

教育を受ける、もしくは躾けられるといった行為もある意味最適化のプロセスだろう。ある文化では自分を抑えることが最適化であるし、他の文化では自己を主張できることが最適化かもしれない。

しかし教育や躾によって最適化されきってしまうと、他の文化に適応できなくなったり、ルールが変わった時に適応できなくなったりする。色んな国を覗いてみたり、あるいはいろんな業界や職場を回って気づいたことがある。

ルールやしつけの8割は暫定的なもの、もしくはローカルなものである。あるシステムで上の立場の人が言うことは話半分で聞くべきだろう。真に受けてはいけない。

最適化とは短期的、局所的な場面で利益を最大にする方略である。経営立て直しで抜擢されるようなプロの経営者は組織を無駄なく最適化し、短期的には利益を上げるが、その後は経営が傾くことが多いとも聞く。これも恐らく最適化の弊害ではないだろうか。

利益を出すために無駄を省く。平時に最適化されたシステムはパンデミックのような百年に一度のテールリスクで破綻する。最適化されたマスクやトイレットペーパーの供給システムを考えてみるといい。食料の自給率を下げ生活費が安くなることの裏には結構なリスクもある。

遊びのないシステム、余白のないスケジュール、完璧に組み立てられた計画は変化に脆い。もう少し毒を吐けば、成長や進化、つまりは最適化というプロセスは自らをある文化、ある業界、ある企業の中で自らを家畜化するシステムである。主人がいなくなったり変わったりした時、家畜度の高い犬から死ぬ。

余白のないシステムは滅びる。世の中におかしな人間が歴史の淘汰の中でも生き残っているのは、多様性を確保するための自然の大きな知恵だろう。街道筋は恐竜のように自らを最適化し、それゆえ寂れたのかと考える。

書店でビジネス書をめくっていると、常に右手を空けておけという言葉に当たった。チャンスや変化は突然くる。万に一つの事象が良くも悪くも大きな変化を運んでくる。余白のない道路や最適化された生き方は短期的には利益を最大化するが、変化に脆い。余白を戦略的に持つのが長期戦を楽しむコツではないだろうか。

さて自由業になった私はどう身を振ろうか。早朝の時間は仕事をせずに、ずっと読みたかった古典を読みまくろう。月曜と火曜はルーチンで朝から晩まで研究室に身を置こう。週7日間みっちりお金に直結する仕事をすればいいのだろうが、余白を作り、パンドラの箱が開くチャンスを待とう。

自らを最適化しないことが大事だと理解できただけでも古道歩きの初日は意味があったかなと思う。でも私たちを突き動かす「意味」ってなんなのだろう。。(つづく)

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