依存症と自己家畜化仮説
私達人間は、タバコやお酒、人間関係からソーシャルメディアまで様々なものにハマりやすく、時には依存症と呼ばれる状態になってしまいます。
こういった傾向はどうも人間特有のもののようで、野生動物には嗜癖行動は殆ど見られず、家畜化された動物にわずかに見られ、実験用に育成されたラットでも、人間ほどの嗜癖行動は示ささないことが報告されています。
今回取り上げる論文は、人間の依存症への脆弱性を自己家畜化仮説の論点から探ったものです。様々な知見が述べられているのですが、以下要点をいくつか記すと
・ヒトの近縁種でもあるサルは、ニコチンやコカインへの嗜癖行動が殆ど見られない。
・家畜化されたラットは、野生種のラットと比べて、アルコールへの嗜癖傾向が見られる。
・このようなラットの嗜癖傾向は、中脳ドーパミン系の調整に関わる遺伝子の違いが原因と考えられる。
・ドーパミンは、イノベーション能力と関連する。
・具体的には、ドーパミンは認知的柔軟性、行動柔軟性を高める。
・動物を対象とした研究でも、社会環境の変化やリスクの変化、自然環境の変化によって、ドーパミン作動系の変化がもたらされることが報告されている。
・ヒトにおいても、環境の影響により、同様の変化が生じ、過去2000-5000年の間に中脳ドーパミン系の調整に関わる遺伝子に変化が生じた可能性がある。
・その結果、ヒトは他の動物と比較して、高い認知柔軟性、行動柔軟性を獲得したが、同時に依存症に対しても脆弱になったのではないか。
ということが述べられています。
20世紀前半のノーベル賞受賞者のおよそ半数以上がアルコール関連の問題を持っていたという話も聞きますが、
創造性にはドーパミンが関与し、それゆえ依存症への脆弱性と裏表なのかなとおもいました。
【参考文献】
Calvey T. Human Self-Domestication and the Extended Evolutionary Synthesis of Addiction: How Humans Evolved a Unique Vulnerability. Neuroscience. 2019;419:100-107. doi:10.1016/j.neuroscience.2019.09.013