地域活性化の成功は何で示されるか?
地域活性化というのは一村一品運動以来の長い歴史を持っていますが、はたしてこの効果というのはどのようにして図ることが出来るのでしょうか?
今回取り上げる論文は、行政による地域活性化の介入効果について検証した研究になります。
1つ目の研究は、アメリカはヴァージニア州の州都、リッチモンドの再開発効果について検証したものです。
Targeting Investments for Neighborhood Revitalization(近隣活性化のための投資のターゲティング)
この再開発計画では、リッチモンド市街地の特定の区域を対象に、1999年から2004年の5年間に約1,660万ドル(およそ20億円)を投入しているのですが、
その内容としては
・1,390万ドル:不動産開発投資 (老朽化した住宅の修復(46%)、不動産買収(27%)、新築(25%)、撤去・解体(2%)、)
・270万ドル: 道路関連インフラ改善投資(街路灯、路地、歩道、街路の改良)
であり、上記の投資に加えて、別途コミュニティ開発金融機関による投資が、同じ地区に470万ドル割り当てられ、
その内容としては、
・3分の2:戸建住宅の開発
・3分の1:商業プロジェクト
に振り分けられています。
では5年間に渡る特定地域の再開発はどのような効果をもたらしたのでしょうか?
下のグラフは対象地区(NiB target area)と対象以外の地区(control area)の不動産価格の変化の推移ですが、
時代背景もあり(サブプライムローンショック前)、全体的に不動産価格は増大しているのですが、介入区域の伸びはより大きいこと、
さらに介入区域を重点的に資金が投入された区域(灰色)と,そうでない区域(桃色)に分けて考えると、重点的に資金が投入された区域の伸びが著しいことが示されています。
しかしながら不動産価格が上がれば地域住民が幸せになるかと言うと、少々引っかかるものがあります。
では不動産価格以外に、地域活性化の指標になるものはあるのでしょうか?
韓国のソウル市街を対象に行政の地域活性化対策の効果を調べたものがあるのですが、
この研究では、行政による地域活性化対策が、住民の社会資本をどのように変えたかについて効果検証を行っています。
社会資本というのは聞き慣れない言葉ですが、これはお金には還元できないような資産であり、
困った時に頼れる人が近くにいるとか、鍵を開けておいても不安がないだとか、そういった社会が持つ人間関係的な資産であり、
こういった社会では、お金がなくても相互扶助的に助け合うことが出来るので、住んでる人の幸福度は比較的高くなります。
この研究では、ソウル市によって2000年から2012年までに行われた4つの大型のコミュニティ構築計画の効果を検証しているのですが、仮説として、以下のようなものを想定しました。
これはつまり、コミュニティ構築計画によって、コミュニティに所属している感覚や隣人関係、集団的効力感(わたしたちはすごいぞ、というような感覚)、市民参加活動といった、社会資本がどの程度変わるかについて調べているのですが、
対象区域とそれ以外の区域を比べた場合、統計学的に有意な水準には達していないものの、コミュニティ構築計画によって、コミュニティ所属感と集団的効力感にわずかに効果があったことが示されています。
効果が少なかった理由としては、現状のコミュニティ構築計画が行政主導で行われており、その計画に住民が参与することが少ないため、必ずしも住民のニーズと一致していないことが関係しているのではないかということが述べられています。
行政による地域活性化対策では、住民の変化を触媒的に促すような取り組みがよいのかなと思いました。
【参考文献】
H. Ryu, J.S. Lee, S.Y. Lee. Participatory neighborhood revitalization effects on social capital: Evidence from community building projects in Seoul, Journal of Urban Planning and Development, 144 (1) (2018), Article 04017025
Targeting Investments for Neighborhood Revitalization, Journal of the American Planning Association,72(4)(2006) , 457-474, DOI: 10.1080/01944360608976766