フォローする
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

感動の新しい概念:Kama Muta

ちょと昔にタイの生命保険会社が作った感動の動画が話題になりました。

上の動画を見てもらえばわかるように、私達は時に触れしばしば「感動」し涙を流しますが、「感動」という言葉や概念は日本語特有の表現のようです。

「感動」に類似した言葉は様々な言語で存在はするのですが、それぞれ微妙に異なっており、どうもひとくくりにはできないようなのですが、これをまとめるとしたらどのような概念になるのでしょうか。

今回取り上げる論文は、世界の様々な「感動」概念を包括する概念を紹介し、かつこの「感動」的状態でどのような生理学的変化が生じるかについて調べたものになります。

Tears of joy, aesthetic chills and heartwarming feelings: Physiological correlates of Kama Muta

(喜びの涙、美的寒気、心温まる感情:カマ・ムタの生理学的相関)

この論文によると、近年、世界各地の「感動」概念を包括する概念として”Kama Muta"と呼ばれるものが提唱されているようです。

このKama Mutaは、もともとサンスクリット語で「愛に動かされた」を意味するकाममूत(音声翻訳を効く限り、私の耳には、カーッ ムーン、と聞こえます)からとった言葉のようですが、

社会的なつながり、世界や宇宙、家族、自然などとの一体感を感じた時に生じる精神状態で、悲しさや楽しさとは区別されるものになるそうです。

この研究では、実際に上記のような動画を見せ、生理学的にどのような変化が起こっているかについて調べています。

この実験では、ポルトガル人とノルウェー人、あわせて144名を対象に、上記のような感動動画や、悲しい動画、恐怖動画を提示して、その生理学的変化の違いについて調べています。

結果を述べると、

・「感動」動画で誘発される生理学的変化は、単に「悲しい」動画や「恐怖」動画とは異なっていた。

・「感動」に伴い、定常的皮膚抵抗、皮膚温度、立毛、頬骨筋活動は増加する

・「感動」に伴い、心拍数、呼吸数、一時的皮膚抵抗は低下する

ことが説明されています。

感動の対象となるのは、自然だったり、ペットだったり、宇宙だったり、国家だったりしますが、

世界との一体感に「快」を感じる能力があったからこそ、ニンゲンというのは世界とうまく付き合ってこれたのかなと思いました。

興味深いです。

【参考文献】

Zickfeld, Janis H et al. “Tears of joy, aesthetic chills and heartwarming feelings: Physiological correlates of Kama Muta.” Psychophysiology vol. 57,12 (2020): e13662. doi:10.1111/psyp.13662

【要旨】

親密さが増したり、例外的な親切さを伴う状況では、しばしば動いているとか触れているとのラベルが貼られ、個人はしばしば、涙、グーズバンプ、および体内の熱感を含む身体症状を報告する。近年、これらの経験の異文化概念化として、Kama mutの枠組みが提案されている。Kama mutに関するこれまでの研究は、主観的な報告にほとんど依存している。そこで、本プロジェクトの主な目的は、ビデオを誘発するかまむしに対する生理学的応答のパターンを調べ、悲しみと恐怖の明確な感情の類似したパターンと比較することであった。ポルトガル人とノルウェー人の参加者144人が、3つの情動条件すべてに個別に曝露された。自律神経系のいくつかの精神生理学的指標が、心血管、呼吸、電気皮膚活動、顔面EMG、皮膚温、ならびにカメラを用いた立毛と流涙を含む、暴露中に連続的に収集された。全体的にみて、この結果は、移された経験および自己報告研究に関するこれまでの知見を部分的に再現したものであった。強力な自己報告によるKama mutの経験は、相動性皮膚コンダクタンス、皮膚温度、立毛、頬骨筋活動の増加と関連していたが、心拍数、呼吸数、強直性皮膚コンダクタンスの低下と関連していた。Kama mutの生理学的プロファイルは悲しみや恐怖とうまく区別され、部分的には自己報告の証拠を裏付けるものであった。流涙または心拍数変動の発生とKama mut associationの明確なエビデンスは得られなかった。著者らの知見は、カーマミューの経験に対する心理生理学的反応の系統的概観を提供し、この感情および一般的な肯定的感情に関する将来の研究に役立つ。

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします