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エピジェネティクスとは?

キリンの首が長いのは、親が首を伸ばそうとしてその努力が子供に伝えられたのだ、

というと最近では小学生にも笑われるかもしれませんが、

引用:独りごと 「昔の話って本当だったかも」

近年になって当たらずとも遠からずといったメカニズムがあるのではないかということが言われています。

これはエピジェネティクスと呼ばれるものなのですが、後天的に受けた影響によって遺伝子のありようが変化する仕組みが最近詳しく分かってきています。

遺伝子が変わると言ってもガラリと変わるわけではなく、遺伝子の一部に不要なものがくっついてしまい、遺伝子の働きが変わってしまうような変化になります。

これは楽譜で言えばフォルテッシモやピアニッシモが音符の上についたり、

あるいは芝居の台本のセリフにト書きが加わるようなもので、

基本的な遺伝子のあり方は変わらないにしても、そのありかたが少し修飾されるような変化になります。

とはいえ、体の仕組みは複雑なので、蝶の羽ばたき一つが台風を生み出すバタフライ効果でもないのですが、ちょっとした遺伝子の変化が、がんやうつ病、認知症といった様々な疾患に結びつく可能性もあります。

今回取り上げる論文はパニック障害に関するエピジェネティクスについての研究になります。

DNA methylation in the 5-HTT regulatory region is associated with CO2-induced fear in panic disorder patients.

パニック障害が起こる機序としてはセロトニンが関係していると言われています。

セロトニンというのは神経伝達物質で、神経と神経の間の隙間、シナプスと呼ばれる部分で情報の橋渡しをする働きがあります。

ただこのセロトニンは多ければそれで良いというわけではなく、セロトニンを受け取るセロトニン受容体がしっかり揃っていないと、せっかくセロトニンがあっても情報が十分に伝えられなくなってしまいますし、またシナプスに放出されたセロトニンがその役割を果たす前に、出どころになった神経細胞の末端(シナプス前終末)に取り込まれてしまうと、十分に機能を果たすことができません。

このようにセロトニンがうまく機能するためには、

・セロトニンの量

・セロトニンの受け手(セロトニン受容体)

・セロトニンの取り込み(セロトニントランスポーター)

の3つが関係してくることになります。

この3つの要因は、その遺伝子によってどれだけ作られるかがコントロールされているのですが、大きなストレスを受けると、先に述べた形で後天的に遺伝子が変わってしまい、セロトニンが機能しづらくなるということもあります。

この研究では、パニック障害患者153名(平均年齢37.6 ± 10.9歳、男性63名)を対象に遺伝子解析をし、

なおかつパニック発作を誘発しうる二酸化炭素を35%含まれた気体を吸入させ、その時の不安感やパニック症状を評価し、エピジェネティクスな遺伝子変化との関連性について探っています。

遺伝子の解析についてはセロトニンの取り込みに関わる遺伝子の中でも、後天的に変化しやすい部位4箇所の変化の程度について調べているのですが(図のCG部分)、

後天的に変化しやすい4箇所の中でも特定の一箇所(CG3)がパニック障害患者の不安感と強い関連があったことが示されています。

パニック発作そのものでは有意な関連性が示されていないので、短絡的にこの特定箇所の変化がパニック障害と関連していると結論付けられないとは思うのですが、

後天的に変化しうる領域の変化度合いで不安感が変化するのであれば、不安症状というのは後天的な要因によるところも大きいのかなと思いました。

【要旨】

セロトニン(5‐HT)トランスポーター(5‐HTT)をコードする遺伝子の多型は、パニック発作(PAs)の実験モデルであるCO2吸入に対する反応を緩和することが示されている。再発性で予測不可能なPAは、再発性発作の予期不安と共に、パニック障害(PD)の中心的特徴を示し、患者の日常生活を著しく妨げる。エビデンスの蓄積は、遺伝的要素に加えて、クロマチン構造を修飾することによって遺伝子発現を調節するエピジェネティック機構もまた、精神障害の病因において基本的な役割を果たすことを示唆している。しかし、PDにおいては、エピジェネティックな機序はほとんど検討されていない。本研究では、PD患者における5‐HTTをコードする遺伝子の調節領域におけるメチル化と35% CO2吸入に対する反応性との関係を検討した。4つの特異的なCpG部位に焦点を当てたところ、これらのCpG部位のうちの1つのメチル化レベルと恐怖応答の間に有意な関連性が認められた。これは、CO2吸入に対する情動反応がエピジェネティックな機序によって緩和される可能性を示唆し、PAsにおける5‐HT系の意味を強調する。PDのエピジェネティックな変化とその機能的結果をさらに検討するためには、今後の研究が必要である。これらの洞察は、根底にある病態生理についての理解を深め、新たな治療戦略の開発を支援することができる。

【参考文献】

Leibold NK, Weidner MT, Ziegler C, Ortega G, Domschke K, Lesch KP, Van den Hove DL, Schruers KR. DNA methylation in the 5-HTT regulatory region is associated with CO2-induced fear in panic disorder patients. Eur Neuropsychopharmacol. 2020 Jul;36:154-159. doi: 10.1016/j.euroneuro.2020.04.011. Epub 2020

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