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進化における暗殺の効用

地球上には数え切れないほどの生物がいますが人間というのは大分変わっています。

自然界の大原則は弱肉強食なのですが、人間世界というのは必ずしもそうではありません。

強大な権力を持った経営者もあまりに私利私欲を追求しすぎるとクーデターの憂き目にあってしまいますし、

政治家でも、ハメを外しすぎると週刊誌に大砲を打たれてしまうことがあります。

しかしながら、なぜヒトだけが弱肉強食の大原則が適応しない場面が出てくるのでしょうか。

今回取り上げる論文は、人の進化における自己家畜化仮説について述べたものになります。

自己家畜化というのは、文字通り自分たちを家畜化することになります。

家畜化といえば、狼を家畜化して犬にしたり、野生馬を家畜化してポニーにしたりしますが、

野生の獰猛な種であってもおとなしいものを選び出して掛け合わせていくことで、人間に対して従順な種を作り上げることができます。

これと同じように、人間も太古の時代においてはチンパンジーのように獰猛な種であったのですが、

自分たちで獰猛な個体を殺害していくことを繰り返し、徐々におとなしい種族に自己改造したというのは、ヒトの自己家畜化仮説になります。

これを図にすると以下のようなものになるのですが、

ヒトが進化の過程で言葉を使えることで、こっそりと話し合って協力することが可能になり、

このことによって横暴なボスザル的人間を力を合わせて謀殺・暗殺することで、遺伝子プールから乱暴者の遺伝子を減らしていき、

徐々に徐々におとなしい種族になったのではないかということが述べられています。

また攻撃には一般的に、反射的・反応的に怒りを爆発させるような反応的攻撃と

クールになにかの目的として暴力を振るうような道具的攻撃があるのですが、

上記の謀殺・暗殺過程で、遺伝子プールの中から反応的攻撃性の強い(いわばキレやすい)個体が除かれていき、徐々に我慢強い種族に変化したのではないかということが述べられています。

実証は難しいとは思いますが興味深いです。

【参考文献】

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Wrangham, R. (2021). Targeted conspiratorial killing, human self-domestication and the evolution of groupishness. Evolutionary Human Sciences, 3, E26. doi:10.1017/ehs.2021.20

【要旨】

グループ化とは、明らかに自己の利益を超えた方法で、社会的な性向と協力をもってグループメンバーに反応する一連の傾向のことである。その進化は、自然淘汰の通常の規則を破る印象を与えるので、謎である。Boehmの解決法は、集団のメンバーが反社会的な人々の効率的な実行者になった結果、集団主義の道徳的要素が生まれ、進化したというものである。彼は、自家経営が同じダイナミックから進んだはずだと指摘した。自家飼育は30万年前に初めて示され、それ以来おそらく歩調を合わせてきており、少なくとも12,000世代にわたる自家飼育と集団飼育の選択を示唆している。ここで私は、特に人間のスタイルの暴力、すなわち共謀による殺害が、自家飼育とグループ化の両方に重要な貢献をしたことを提案する。チンパンジーや他の脊椎動物では、標的を絞った陰謀による殺害は知られておらず、連合体が反社会的な人々を安価に殺すことを許しているため、重要である。集団性の主要な要素は、標的を絞った陰謀殺が原因であるという仮説であり、他の種よりもヒトではるかに精巧である理由を説明するのに役立つ。

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