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動きと言葉:動きを表す言葉はどこまで運動なのか?

私達人間は他の動物と比べていろいろと変わった能力を持っていますが、その中の一つに妄想するというものがあります。

この妄想というのはイメージと言い換えてもいいのですが、目の前にないものをあたかもあるように考えたり表したりすることができます。

この能力があるので、「りんご」という言葉を見れば、、目の前にりんごがなくても、あなたはりんごのことを想像することができますし、「ぶん投げる」という言葉を聞けば、あなたは何かをぶん投げることなしに、その動きを想像することができます。

しかしながらこういった言葉を読んだり、聞いたりしている時、私達の脳はいったいどのように動いているのでしょうか?

今回取り上げる論文は、動きを表す言葉を認知している時に、脳がどのように活動しているかについて詳しく調べたものです。

Neural correlates of manual action language: Comparative review, ALE meta-analysis and ROI meta-analysis

動きの言葉、動きの観察、動きの想像、動きそのもの

この研究では、過去に動きの言葉に認知している時(見たり、聞いたりしている時)に、脳がどのように活動したかを調べた研究を集め、そのデータを取りまとめて解析しています。

またそれだけではなくて、動きを観察している時の脳活動や、動きを想像している時の脳活動、さらには実際に動いている時の脳活動についての研究データを取りまとめて解析しています。

結果を述べると、動きの言葉を認知している時の脳活動と最もよく似ているのは、動きを観察している時の脳活動で、ついで動きの想像、最も似ていないのが、実際に動いている時の脳活動であることが示されています。

また動きの言葉を認知している時に活動している脳領域とその機能(推定的なもの)については、

①前部中側頭回運動に関する認知的役割

②前頭弁蓋部(ブローカ野)行動目標の処理

③腹側運動前野視覚空間情報と運動表現のマッチング

④体性感覚運動皮質物体の体性感覚特性の処理

⑤後部中側頭回行動の意味の処理

⑥前補足運動野運動表現の生成

であることが述べられています。

総じて、動きの言葉を認知している時の脳活動は、運動的色彩よりも認知的色彩が強いということが述べられています。

とはいえ、直感的には、運動というのはすでにそれ自体認識も感覚も含まれているような気がして、はたして運動とか認知にきれいに切り分けられるものなのだろうかと思ったり、

あるいは何かを意図したり感じたりすることには、様々な脳領域が関係しており、私達の一挙一動には、個人の人生で経験したすべてが練り込まれているのかなと妄想したりしました。

難しいです。

【要旨】

何十年にもわたる研究にもかかわらず、行動言語処理における運動系の関与の性質は依然として物議を醸しており、行動言語の処理が運動行動の観察、画像化、および実行にどのように関連するかについてはほとんど知られていません。この研究は、文献の系統的レビュー、ALEメタアナリシス、および関心領域(ROI)メタアナリシスを組み合わせて、行動言語に関与する運動関連機能ネットワークの最初の完全な(定性的および定量的)説明を提供します。運動観察、運動イメージ、運動実行中に報告された活性化と比較した処理。文献のレビューにより、行動言語研究の方法論は、長年にわたって解釈を曖昧にする一因となった可能性のある他の運動関連プロセスの方法論とはかなり異なることが明らかになりました。ALEとROIのメタアナリシスは、行動言語の機能的ネットワークが、運動の段階的変化に続いて、画像よりも観察に、そして最終的には実行に類似していることを示しました。全体として、私たちの結果は、行動言語処理中の運動系の純粋な運動的関与とは対照的に、より認知的な関与を示しています。

【参考文献】

Courson M, Tremblay P. Neural correlates of manual action language: Comparative review, ALE meta-analysis and ROI meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2020;116:221-238. doi:10.1016/j.neubiorev.2020.06.025

 

 

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