
「動作の結果はヒトの下前頭-頭頂皮質に表象される」
私達は何気なく朝から晩までいろんなことをして動いていますが、これはよくよく考えると不思議なことです。
たとえばごくごく簡単な動作、「喉をうるおす」ということを考えてみましょう。
大きく見れば「喉をうるおす」です。
仮に目の前に水の入ったコップがあってそれを飲んで喉をうるおすとしたら、この行為は
「コップを見る」
「コップに手を伸ばす」
「コップの水を口に流し込む」
というふうに分けることができるかもしれません。
さらに「コップに手を伸ばす」というところだけを細かく見れば
「肩を少し上げる」
「肘を少し伸ばす」
「手首を少し回す」
「指を半開きにする」
という細かい内容に分けられるかもしれません。
このうち「肘を少し伸ばす」というところだけを取ると
「上腕三頭筋を少し収縮させる」
「上腕二頭筋を少し弛緩させる」
というふうになるかもしれないし、その気になればもっと細かい内容にまで分解できるのではないかと思います。
つまり何が言いたいかというとヒトのやることなすことは階層構造、入れ子構造になっているということで
「喉をうるおす」
「コップを見る」「手を伸ばす」「口に流し込む」
「肩を上げる」「肘を伸ばす」「手首を回す」「指を伸ばす」
「上腕三頭筋を縮める」「上腕二頭筋を緩める」
・・・・
というふうになります。
こんな風にヒトのやることというのはピラミッドのような階層構造になっていると考えることができます。
ミラーニューロンシステムというのはこういったヒトのやることなすことを見て取るようなシステムで、これはちょっと動作を見ただけで相手のやることなすことを理解できるというもののようですが、従来の学説だとミラーニューロンシステムが「見て取れる」のは運動の段階までだったそうです。つまり上記の説明で行けば「手を伸ばす」というところまではミラーニューロンシステムで理解できるけど「渇きをいやす」という想いまでは理解できない、そういったことが言われてきたそうです。
今日取り上げる論文ではある実験方法でよく見てみたところ左半球のミラーニューロンシステムは運動レベルまでしか「見て取れ」なかったのですが、右半球のミラーニューロンシステムは「喉をうるおす」という意図のレベルまで「見て取る」ことができることを示しています。
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ポイント
スイッチを押すというシンプルな動作は様々な解釈が可能である。それはライトを消す動作かもしれないし、コンピュータから大事なファイルを削除しているかもしれないし、あるいは生命維持装置を切っている動作かもしれない。
いずれの動作も運動学的には同じものであるが物理的にもたらされる結果は異なるものである。
本研究では繰り返し刺激によって右下頭頂葉と右下前頭葉の活動は動作の結果に対しての反応が乏しくなるが、運動学的なパラメータには変化を受けないこと、それゆえこの領域は人の動作がもたらす物理的な結果をコードするものであることを示す。
参考URL :Action outcomes are represented in human inferior frontoparietal cortex.
補足コメント
運動の階層構造を理論だてて説明したのは旧ソ連のパブロフの系譜に連なるベルンシュタインという人だったそうです。
興味のある方は以下の本をどうぞ