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「楔前部:その機能解剖と行為との関連についてのレビュー」

手塚治虫の幻の作品として『植物人間』というものがあるそうです。

これはいろんな事情から現在の単行本には収録されていないものですが、内容としては植物状態に陥った母親とその子供の脳をつないで・・という内容のものらしいです。

この画像にあるようにブラックジャックは「彼女の脳は生きているかもしれない、脳波計に測定されないくらいわずかな脳波が出ているかもしれない」と主張していますが、はたして21世紀の現在、この「わずかな脳波」とはいったいどのようなものを指すのでしょうか。

今日取り上げる論文は自己意識に関係するとされる脳のある部分について詳しく調べたものです。

この領域は脳の内側にあって外側からは隠れた位置にあるのですが、植物状態から最低限の覚醒レベルに復活する際にまずこの領域から活動が再開することから、この部分が最低限の自己意識の発現に重要なのではないかということが述べられています。

 

【要旨】
近年の神経画像によって今まで十分に調べて来られなかった楔前部の役割が明らかになってきている。この楔前部は視空間的な想像やエピソード記憶の再生、自己主体間などの感覚に関わっていることが考えられている。またそれだけでなくこの楔前部は安静時に高い活動を示し目標志向的な活動に際してその活動を低下させることが示されている。それゆえこの楔前部は複雑なネットワーク関連の中で自己意識に関係して作用していることが考えられている。この楔前部が自己意識に関係するという仮説はこの領域が睡眠や薬物摂取、植物状態という意識変性状態で活動を低下させるという研究からも裏付けられるものである。本稿ではこの楔前部の解剖学的、機能学的側面に当てられた研究を振り返りその働きを示すものである。その働きを考えた場合、楔前部の前方領域は内側前頭前野と接続して自己中心的なイメージの生成に関わり、後方領域は記憶関連領域と結びついてエピソード記憶の再生に関わっていると考えられる。

参考URL:The precuneus: a review of its functional anatomy and behavioural correlates.

コメント

もう少し詳しい話を書くと

脳の中には自分感覚に関わるネットワークがあるとされており、そのネットワークを構成する重要な一つに楔前部と言われる領域があります。

これは頭頂葉の内側にある領域で場所は添付の矢印がある紫色の部分です。

上図参考URL:

この領域は記憶や情動、その他もろもろ脳の広い領域と連絡を持っていて

それゆえ自己意識の成立に必要なのではないかということです。

とはいえ楔前部が活動している≒意識があるというのもどうかと思って

例えば脳死での臓器移植に際しては脳死患者に対して全身麻酔を必ずするそうです。

というのも脳死状態になって意識のないはずの患者がメスを入れられた瞬間苦悶の表情となってビクビクとまるで生きているかのような反応を示すからだそうで、そんなこともあって必ず全身麻酔を施すようになったとのことですが

「死者」に全身麻酔を施すというのはどういうことなんだろうと思ったり、

脳死にかぎらず中絶のことを考えても、果たして生きている死んでいるというのを決めるのは何なんだろうと思ったり

結局彼/彼女に心はあるかという話だと思うのですが、ではその「こころ」というのはどこにあるんだろうと思ったりします。

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