
トップダウンとボトムアップ:「見る」と「見える」の脳システム
よくよく考えるのですが、「見る」と「見える」の違いは何でしょうか。
「見る」というのは意識してみるということだと思います。見るぞという心構えがあって見る、いわばトップダウン的な視覚処理なのではないかと思います。
これに対して「見える」というのは無意識的な視覚処理なのではないかと思います。
むしろ「見える」より「見えちゃう」の方がイメージがつかみやすいかもしれない。
マリリン・モンローの下からの風でスカートが捲れる映像がありますが、あんな場面に実際遭遇したら「見る」なんて意識がなくてもついつい「見えちゃう」、無意識的な感じで視界に入ってくる。
こういうのは刺激駆動型の視覚処理、いわばボトムアップ的な視覚処理なのではないかと思います。
普段行きている中ではどっちがどっちということもなく、「見る」と「見える」、トップダウンとボトムアップの両方を行ったり来たりで生活しているのではないかと思います。
彼女と腰掛けて話していても、可愛い女の子が視界に入れば視線はそっちに向くだろうし、いやいやいけないと思って、もとの方向に意識的に視線を戻すかもしれない。
こんなふうに「見る」と「見える」が瞬間的に切り替わりながら、協調しながら視覚経験がなされているのではないかと思います。
今日取り上げる論文はこの「見る」と「見える」がどこで切り替わっているかについて調べたものです。
「見る(トップダウン)」回路も「見える(ボトムアップ)」回路も前頭葉と頭頂葉を結ぶネットワークでなっているという点では共通なようです。
前頭葉 ⇆⇆ 頭頂葉
「見る」回路 : 前頭眼野 ⇆⇆ 頭頂間溝
「見える」回路:腹側前頭前野 ⇆⇆ 側頭頭頂接合部
で、この各々の回路が視覚野と連絡を持っていて、それぞれが視覚野に調整をかけているようです。図にするとこんな感じでしょうか。
前頭葉 ⇆⇆ 頭頂葉
「見る」回路 : 前頭眼野⇆頭頂間溝⇆⇆⇆⇆⇅
視覚野
「見える」回路:腹側前頭前野⇆側頭頭頂接合部⇆⇅
こんなふうに「見る」回路も「見える」回路も視覚野に繋がって、この領域の活動を調整して目に入る景色のどこを強調するかを調整している。
で、この2つの回路がどこで繋がるかというと頭頂葉でつながっているらしいです。頭頂葉の頭頂間溝と側頭頭頂接合部のあいだに連絡があるようです。図にすると
前頭葉 ⇆⇆ 頭頂葉
「見る」回路 : 前頭眼野⇆⇆頭頂間溝⇆⇆⇆⇆⇆⇆⇅
⇅ 視覚野
「見える」回路:腹側前頭前野⇆⇆側頭頭頂接合部⇆⇆⇆⇅
こんな感じで連絡していて、スイッチが切り替わるそうです。
つまり「目移りがする」という状況は側頭頭頂接合部が頭頂間溝にはたらきかけてトップダウン的な注意を切り替えさせるために起こるのかなと思いました。
【要旨】
「本稿では異なる注意機能を持つ部分的に分離されたネットワークを取り上げる。一つは頭頂間溝と上部前頭葉からなるネットワークで、これはトップダウン的な刺激の検出、選定に関わる。もう一つは側頭-頭頂葉と下部前頭葉を含むネットワークで、これは右に偏移したシステムでありトップダウン処理には関わらないものである。その代わりにこのシステムは行動に関連した刺激の検出に特化しており、顕著な性質を持っていたり、予期しないような刺激に対して反応を示す。この腹側の前頭頭頂ネットワークは背側システムの“サーキットブレイカー”として働き、顕著な性質を持つ刺激に注意を切り替える役割を持っている。この2つのシステムは通常相互に協調して働いているが、半側空間無視ではこの協調が障害される。」
参考URL:Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain.
コメント
ちなみにこの「見える」回路、つまりボトムアップ回路は右優位にできているようです。なので半側空間無視は左片麻痺の方で重くなりやすいそうです。
左半側空間無視でも全然左がだめなのは多分トップダウン回路の問題で、意識させると左側に気を向けられるのはボトムアップ回路の問題なのかなとも思います。
書いている本人も書きながら混乱します。難しいです(-_-;)
平たく言えばこの広範な前頭-頭頂ネットワークのどこかがやられてもきっと半側空間無視が出るということで
特に右頭頂葉の真ん中より下の方(頭頂間溝とか側頭頭頂接合部)に病巣がかかるようだったら、症状も重くなるのかななどと考えました。
うまく説明できないけど、歩くのが上手になって半側空間無視が軽くなってくる人と、全然普通に歩けるけど半側空間無視が重い人って、ネットワークの壊れ方がだいぶ違うような気がする。どこがどうかというのは説明できないけど。
二群にわけて研究したりしたらなにか違いがでるのだろうか。
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