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現象としてのワーキングメモリ?

ワーキングメモリというのは電話番号や人の顔を一時的に頭の中にとどめておいて、それをうまい具合に並べかえたり操作したりして、実際の動作なり、何らかの思考なり、実際の発話なんかにつなげるそんなシステムのことをいうそうですが、これには標準モデルというものがあるそうです。

どういうものかというと前頭前野のあたりに情報を短期的に貯めこむ部位とその情報を操作する中央実行系と言われるシステムがあって、

この二つが協調してワーキングメモリシステムを構成しているというものなのですが、今日取り上げる論文はこの従来の標準モデルに異議を唱えたものです。

ワーキングメモリというのは従来言われてきたような独立したシステムではなく、脳の活動の結果立ち現れる現象のようなものなのではないか、

具体的には感覚や運動、記憶に関わるシステムが注意機能を軸にして協調的に働く時に生じ出てくるような機能なのではないかということが述べられています。

【コメント】

ことばを使うのは、いろんな動物の中でもヒト科だけなので、ヒトの脳にはいわゆる「言語機関」みたいな特別なシステムがあるのではないかという話もあるのですが、この間読んだ本で、それは違うんじゃないかという話がありました。

多くの人がパソコンで文字をタイピングをするし、あと100年もしたらタイピングというのは、ヒトであればだれでもできているようなそんなスキルになっているかもしれないとします。

 じゃあその時、ヒトの脳にはタイピングするための特別なシステムがあるということがいえるかといえば、そんなことはいえない。

運動や感覚、記憶に関わるいろんなシステムがあって、結果としてタイピングが出来るのであって、タイピング用の特別なシステムがあるわけでもなければ、「ヒトはタイピングする動物である」などとだいそれたこともいえない。あくまでタイピング能力は結果であるということになるのだと思います。

ヒトがことばを使えるのも、ことば専用の特殊なシステムがあるわけではなく、感覚や運動、記憶に関わるシステムが、たまたまうまい具合に働いて、結果、言語機能が立ち現れるんじゃないか、そんな話だったと思うのですが、なるほどなあと思いました。

なので、ワーキングメモリというものは、それ専用の特殊なシステムがあって成り立っているのではなくて、感覚や運動、記憶が協調して働くときに立ち現れる機能なのではないかというこの説ももっともかなと思いました。

【要旨】
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「ワーキングメモリに関する研究が認知神経科学領域において活発に行われてきたが、これらの研究を後押ししてきたのは、心理学的理論と神経科学的データに基礎づけられたワーキングメモリの標準モデルである。この標準モデルというのはすなわち、神経系には短期記憶を可能にするシステムとその短期記憶を操作する中央実行システムがあり、とりわけ前頭前野がこれらのシステムの神経基盤になっているというものである。しかしこの標準モデルは近年の研究により説得力の乏しいものになってきている。この標準モデルに対抗する新しいモデルとは以下のようなものである。すなわちワーキングメモリというのは脳の活動にともなって立ち現れる一つの機能であって、具体的には知覚や表象、動作を可能とするために発達してきた諸システムが、注意機能を通じて協調的に動員されるときに立ち上がってくる一つの創発される機能であるというものである。ヒトやサルを対象にした様々な研究から前頭前野の活動の遅れをどのように解釈するかが議論されている。」
参考URL:Working Memory as an Emergent Property of the Mind and Brain


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