
チンパンジーの冷血、人の熱血
職場で定時に帰りにくいのはなぜでしょうか。
あるいは使おうと思えば使える長期の有給を取りづらいのはなぜでしょう。
あるいはみんながお腹を減らしているとき、自分だけごちそうをパクパク食べると気まずいのはなぜでしょう。
ヒトには他者を差し置いて自分だけ得をするということに対する強い不安感、罪悪感というのがデフォルトで備わっているかもしれません。
たしかに大変な思いをしている人に共感して自分も犠牲を払うということもあるのかもしれません。
ただそういった共感の感情とは別に、自分だけが得をすることに対する微妙な感情、あるいは他者が得をすることに対する不快な感情、こういったものがデフォルトで備わっているのがヒト科の特徴なのかもしれません。
今日取り上げる論文はチンパンジーがこういった特徴、つまり他者の福利へどの程度関心があるかについて調べたものです。
ヒトであれば他者の幸せが気にならないわけではない。
それゆえ関係のない他者のために寄付もすれば社会保障制度なんかもしっかり作ってみたり、道で困っている人がいれば手を差し伸べる。
この実験ではチンパンジーが関係のない他のチンパンジーに福利(エサ)を与えうるかを調べたものです。
結果を述べると、チンパンジーは関係のない他個体の福利には無関心な行動を取ることが実験によって示されており、チンパンジーの社会生活を見ると共感の感情や公平さに関する感情の存在は考えられるが、自分が他者より得をすることに対する不快な心持ちまであるとは言い切れないということが述べられています。
「ヒトは非常に向社会的な種であり、投票したり、犠牲を払ったり、社会規範を破るものには罰を与えたりということを行う。また実験によってヒトは直接関係のない他者を助けるために一定のコストを支払うことが示されている。こういった行動は共感や他者の福利への心遣いといったものに基づいている。これと対照的にヒト以外の生物においてはこういった協調的行動は親族や互助関係にある個体に対してのみに行われ、直接関係を持たない個体に対しては行われることはない。今回チンパンジーを対象に実験を行い、チンパンジーが関係のない他者に利他的な行為を行うかについて調査を行った。実験は利他的な行為を与えることで何のリスクも損失もない設定出会ったにもかかわらず、チンパンジーには利他的な行為は見られなかった。チンパンジーの生活においては多くの向社会的活動が見られる。共同の採集作業や縄張りのパトロール、侵略のための連合や協同しての狩りや食べ物の分けあいや仲間の保護などの様々な活動から、チンパンジーは何らかの共感能力があることが考えられている。また自分が与えたものより劣ったものが返戻された場合にはそれを拒否するなど「公平さ」の感覚も有しているように思われる。しかしながら自分が他者よりもよりも得をすることに対する不快な感情を持ち合わせるという証拠は示されていない。」
参考URL:Chimpanzees are indifferent to the welfare of unrelated group members.
コメント
先日某ユニクロというお店へジーンズを買いにでかけ
日曜だったのでいろんなお客様がいて、いろんな服を着てはいろんな服を探していて
服を一生懸命選ぶその様子を見ているとヒトは自分は特別でありたいという強い欲求を持つ生き物なのかと思ったり
そうかと思えば優れた他者を羨む性向、嫉妬という感情もあり
これは他者が特別であることを許さない感情だと思うのですが
自分が特別でありたく、かつ他者が特別であることを許さないという感情を皆が持ち合わせていたら、原理的に世の中皆が納得できるわけがなく
これが人間の性向としてどうしようもないものなら、ヒトがなすべきは賢くなることでなく、愚かさ加減を自覚することなんだろうと思ったりします。
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