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トップダウン的注意と情動的注意の関係とは?

今日取り上げる論文は、情動と注意の関係について調べたものです。

普段生活していると、目の中にはパソコンから洋服、本棚などなどいろんな物が飛び込んでくるのですが、意識されるのはごくごく一部のものになると思います。

こういった処理はなにかを見ようという能動的なトップダウン処理と、特徴がありすぎてだまっていても目に飛び込んでくるようなボトムアップ処理の2つによってなされるそうです。

前頭-頭頂ネットワークによる
トップダウン処理
  ↓↓↓
視覚野での様々な  → 記憶と運動システム
表象の競合     → への出力
  ↑↑↑
感覚駆動性のボトムアップ処理

これとは別に第三の経路として、情動的な情報処理経路があるのではないかということも言われているそうです。

この情動的な情報処理経路というのは、怒った顔や蛇などの危険情報を拾い上げるようなそんな経路のことのようですが、今日取り上げる論文では、この経路は独立したものではなく、トップダウン処理の影響を受けるものだということを示したものだと思います。

もう少し平たく言うと、何かに注意している時というのは、情動的な情報も検知されやすくなるということだと思います。

普段、診療していて患者さんの体を注意して触っている時というのは、患者さんの表情の変化に敏感になるというのは経験があるのではないかと思います。

これとは対称的に疲れて帰ってきたところに奥さんに肩もんでといわれて、適当に肩を揉んでいる時というのは、そんなに奥さんの表情の変化に目が行かないのではないかと思います。

何かに注意を向けている時には、付随的に情動的な情報も検知しやすくなるのではないかというのが、この論文の趣旨ではないかと思います。
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【要旨】

「日常、視野には様々なものが現れるが、視覚による情報処理容量は限られているため、様々な視覚刺激が競合することになる。この中で勝ち残ったものが視覚表象として神経系に表象されることになる。このような競合過程はトップダウン的な処理とボトムアップ的な処理によって調整される。この情報同士の競合は視覚野内でなされるが、この競合過程に影響を与えるトップダウン的な処理は前頭―頭頂ネットワークを中心とする脳の様々な領域が関わっている。このトップダウン処理やボトムアップ処理の他に自動的に駆動される「情動刺激」があるという報告がある。今回、我々は情動刺激による反応は自動的になされるのではなく、トップダウン処理の影響下にあることを実験の結果とともに示す。」

参考URL:Attentional control of the processing of neural and emotional stimuli.

コメント

患者さんを見ていても、認知症が進んでぼんやりしてくると表情の変化を検出するのが鈍くなるような気がします。

悪質な訪問販売が高齢者を対象にするのは、歳を取るとこの情動的な情報(怪しい人、親切だけどなんだか下心がありそうな人)を検出する力が落ちているからという話を聞いたことがありますが

たしかに前頭前野に由来しそうな認知能力と情動的な情報を処理する認知能力はどっかで繋がっていそうな気がします。

医療に特化した急性期病棟にいる間はずっとぼんやりしていて、ご飯も食べてくれなかったり、怒らず、笑わず、何の欲求も示さないような患者さんが

あれこれ賑やかな療養病棟に移ったら、いろんな欲も出てきて、かつメンタルもしっかりしてきたりということもあると思うのですが

これは情動を喚起するような環境というのは、前頭前野を中心とするシステムにも何か影響を与えるのかなあなどと思ったりしました。

常に泣いたり笑ったりの環境に身をおいている人というのは何だかボケにくいような気もして

やはり泣いたり笑ったりは大事なのかなと思ったりします。

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