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「過去を思い出すことと未来を想像すること:その形成と精緻化の神経基盤における共通点と相違点」

マッチ売りの少女ではないのですが、私達は未来や過去を今の感覚として想像することができます。

こういった現象はマインドタイムトラベルとも言われているのですが、こういった時私達の脳はどのように活動しているのでしょうか。

今日取り上げる論文は未来や過去のことをイメージしている時の脳活動について調べたものです。

未来や過去のことを考えると言ってもいろんなパターンが有ります。よく自己啓発本ではできるだけリアルに成功をイメージしなさいと書いてありますが、この実験ではまず最初に漠然と過去や未来をイメージさせ、その後、そのイメージの作り込み(精緻化)をさせ、その時脳で何が起こっているかについて調べています。

結果を述べるとイメージの作り込みの段階では脳の中でも「自分ごと」としてシミュレーションする領域の活動が高まっていることが示されています。

脳の中にはシミュレーション装置に当たるようなシステムがあるのですが、このシミュレーションには「自分ごと」としてシミュレーションするようなものと「他人ごと」としてシミュレーションするような二つの領域があるようです。

イメージの作りこみの段階ではこの「自分ごと」システムが強く活動することが示されています。

つまりイメージというのは作りこめばこむほど「自分ごと」として感じられるわけで、こういったことからも運動している時の運動に関わるイメージトレーニングにしろ、未来の展望を持つにしろ、イメージというのはできるだけリアルに作り込んだほうが効果があるのかなと思いました。

【要約】
私達は意識的に過去のことを再体験したりあるいは未来のことを先行的にイメージしたるすることが出来る。今回の実験では機能的MRIを使用して過去のことを思い出している時と未来のことを考えている時の脳活動を測定した。実験では被験者に単語を提示し、20秒かけてその単語に関わる過去の出来事と未来の予想を行ってもらった。イメージが出来たところでボタンを押してもらい、その後20秒かけてそのイメージを精緻化してもらい、それぞれの脳活動を測定した。結果、イメージをつくり上げる段階では過去のイメージも未来のイメージも共に左の海馬と後部視空間処理領域に活動が見られた。また未来のイメージを作り上げている段階では右の前頭極と左腹外側前頭前野に活動の増加が見られた。イメージを作り上げている段階とは対照的に、イメージの精緻化の段階では自伝的記憶に関わるネットワークが賦活される傾向があった。これらの結果は健忘症患者が過去や未来のイメージを作ることができないという先行研究の結果とも一致しており、エピソード記憶が未来の記憶の形成に重要であることが考えられた。

参考URL:Remembering the past and imagining the future: common and distinct neural substrates during event construction and elaboration.

コメント

「他人ごと」シミュレーションが悪いというわけではなく、自分を客観的にみるようなメタ認知ではこの「他人ごと」システムが働くとも言われています。

もう少し詳しい話を書くと

脳の中にはシミュレーション全般に関わるようなネットワークがありデフォルトモードネットワークと呼ばれています。

その中でも内側前頭前野という領域は大事なところなのですが、この内側前頭前野の腹側領域は「自分ごと」としてのイメージ、背側領域は「他人ごと」としてのイメージに関わるとされています。いわば前者は一人称的視点、後者は三人称的視点といってもいいのかもしれません。

なお過去や未来のイメージにはこのデフォルトモードネットワークだけでなく、記憶の代名詞とも言える海馬が活動しているようで、

こういったことからも未来のイメージというのは過去のエピソード記憶を基に作り上げたものであろうということが言われています。

「事実は小説より奇なり」というのは、イメージ出来る未来というのは所詮、過去の経験の焼き直しに過ぎないからかなと思ったり

未来というのは本質的に「想定外」なのかなと思います。

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