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【デフォルトモードネットワーク】未来の記憶と脳の想像

人生というのは今だけではありません。今という時間の先には今後何十年という時間が待ち受け、今という時間の後にはこれまで歩んだ数十年の時間があります。

ヒトはその時々で過去を振り返ったり未来を考えたりしますが、不思議なことにこれは一様ではありません。

気分のいい時というのは未来はそれなりバラ色で、振り返る過去も良い人生だったと呼べるようなものかもしれません。

ところが気分の滅入っている時、もうどうしようもない気分の時というのは未来は真っ暗にしか感じられず、今まで歩んできた人生もろくなものじゃないと思えたりします。

同じ人生を歩んできて同じ地点に立っているとしても、その時々で感じられる過去と未来というのはまるで違ったものになる、これはいったい神経科学的にどういう解釈ができるのでしょうか。

今日取り上げる論文は未来の記憶について調べたものです。

未来の記憶というと変な感じがするかもしれませんが、これはつまり「明日はああしよう」とか「3年後は家建てて家族がいて・・」といったようなことを考えている時、脳がどんなふうに活動しているか、そういったことを調べたものです。

未来の記憶について調べられたいろんな論文をまとめているのですが、結論を述べると未来のことを考えるのも、過去のことを考えるのも、そして今の今を感じることも基本的には同じ脳活動ではないかということが述べられています。

過去にしろ未来にしろ今にしろ、脳に蓄えられた莫大な記憶を使って、その都度その都度「自分」を「創造」している、

それ故今気分が良ければ思い出される過去や考えられうる未来もバラ色で、今気分が悪ければ過去も未来も真っ暗になる、そういうことがあるのではないかということが述べられています。

【要約】
本稿では近年認知科学分野で注目を集めるテーマである未来のイベントのシミュレーションに関わる神経活動および認知活動について取り上げる。まず私達が提唱する概念をより広い文脈に置くために、シミュレーション概念を示した心理学的、認知科学的研究について説明する。その後未来のイベントのシミュレーションについての神経科学的研究、認知科学的研究を取り上げ、エピソード記憶との関わりについて述べる。こういった先行研究から示されるのは、未来のイベントのシミュレーションというのは脳の中核を担う領域でなされ、かつその活動の仕方は過去のイベントを思い出す時と同じパターンを示すということである。これらのデータに基づいて理論的な分析を行った後、こういったエピソード的なシミュレーションが鬱病患者や不安症患者においてどのようになっているかについて臨床的知見を取り上げる。最後に未来のイベントのシミュレーションというのはすなわちエピソード的なシミュレーションであり、計画機能や予測機能、意図の想起といった機能を含むものであることを述べる。これらは“未来予想的な脳”とも呼べるものであり、その主要な機能は過去の出来事を材料にして未来を予測することであると考える。

参考URL:Episodic simulation of future events: concepts, data, and applications.

コメント

元気が無い時は未来も過去もまっくらというのはこういった神経基盤があるからなのかなと思いました。

ちなみにもう少し詳しい話を書くと

脳の内奥には「自分は自分」という感覚に関わるシステムが有りデフォルトモードネットワークと言われています。

具体的には内側前頭前野と後帯状皮質がネットワークの中心点になるようなシステムなのですが、その他重要な領域として前帯状皮質吻側部があります。

ここは情動処理と関係が深いところなのですが、デフォルトモードネットワークを構成するいろんな領域に枝を伸ばしており

鬱病患者が未来のことを考えている時と、楽観主義者が未来のことを考えている時を比べると、その内容もさることながら、この前帯状皮質吻側部の活動が楽観主義者では高く、鬱病患者では低かったそうです。

また鬱病患者に抗鬱薬を投与するとこの領域の活動が高くなるという変化もあり、このへんが明るい未来と真っ暗な未来にに関係しているんじゃないかという話でした。

「くよくよするなよ、心配するなよ、そんなの気の持ちようだよ」というのは、間違ってはいないけれど、やはりそういう心を持てないだけの背景があるのかなと考えたり

無理せず、心と体を整えて、今の今を丁寧に生きることが一番大事なのかなと思いました。

 

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