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モザイクとしての背側運動前野

私達は何も考えることなくコップを取ったりキーボードを打ったりしますが、

こういった何気ない行為というのは非常に複雑な仕組みによって支えられています。

たとえば目の前のコップを取るということを考えれば

・のどが渇いたという欲求を意識し、

・近くにコップという水が入りられる容器があることを認識し、

・自分の体とコップまでの距離を推定し、

・そこまで手を伸ばすためにもっとも楽な運動方法を選び出し、

・視線をコップに向け、

・手にとった感覚を予期しながら

・実際に肩、肘、手首、指を強調させて動かす

という長々としたプロセスを一瞬で行う必要があります。

こういった運動に関わる複雑な処理に関わるとされているのが高次運動野と呼ばれる領域ですが、

その中の一つに背側運動前野と呼ばれるものがあります。

背側運動前野は一般に動作の計画に関わるとされているのですが、この動作の計画も今述べたように随分複雑にできています。

はたして背側運動前野というのは、どのような仕組みでこの運動の計画を行っているのでしょうか。

今回は右背側運動前野の機能について詳しく調べたこの論文について紹介します。

The Right Dorsal Premotor Mosaic: Organization, Functions, and Connectivity

背側運動前野の機能それぞれ

背側運動前野の機能としては、認知的なものから(コップの所在を知る)運動的なものまで(どのような運動を行うか選択する)様々ですが、

この研究では右運動前野の機能についてなされた過去の研究のデータを取りまとめ、

右運動前野のどの部分がどのような機能に関連しているか。

また右運動前野のどの部分が脳のどの部分とつながっているかについて調べています。

結果を述べると、右運動前野は大きくは5つの領域に分けることができ

機能面の違いとしては、吻側(前方)ほど認知的機能との関わりが深く、尾側(後方)へ行くほど運動機能との関わりが強くなり。

他の脳領域のつながりもこれらの機能特性を反映したものになることが示されています。

現在行っている自分の研究の結果を見ても、運動準備段階でこの領域が中心になって活動しているようなのですが、

運動意図というのは感覚とか運動とかで切り分けられるものなのかなと思いました。

【要旨】

ヒトの右背側運動前野皮質(PMd)は、広範囲の運動および認知機能に関与することが報告されている。著者らは、PMdコアクチベーションに適用したメタアナリシスアプローチを用いて連結性ベースのパーセル化を実施することにより、この行動の不均一性の基礎を探求した。著者らは、静止状態の機能的接続性および確率的拡散トラクトグラフィーを通して得られたパーセル化と、接続性に基づくパーセル化の結果を比較した。結果として生じるPMd部分領域の機能的接続性プロファイルと挙動復号化は、それらのそれぞれの挙動プロファイルを特徴付けることを可能にした。これらの手順は、右PMdを5つの異なる亜領域に分割し、それらは、吻側‐尾側軸に沿った認知運動勾配を形成した。特に、我々は、1)作業記憶のような高レベルの認知過程を支持する前頭前野皮質と機能的に連結した吻側亜領域、2)背側注意ネットワークの頭頂部領域への混合した行動プロファイルと機能的連結性を示す中央亜領域、および3)運動系と密接に統合した尾側亜領域を見出した。さらに、著者らは、4)手の動きに優先的に関連し、認知領域と運動領域の両方に関連する背側部分領域、および5)機能プロファイルが眼球動き関連領域の概念に適合する腹側部分領域を見出した。結論として、右PMdは5つの亜領域によって形成される機能的モザイクと考えられる。

【参考文献】

Genon S, Li H, Fan L, et al. The Right Dorsal Premotor Mosaic: Organization, Functions, and Connectivity. Cereb Cortex. 2017;27(3):2095-2110. doi:10.1093/cercor/bhw065

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