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運動前野は何をしているのか?

私達人間がやることは随分複雑です。

人間の体は骨で言えばおよそ200、筋肉の数で言えば600以上、そしてなしうる動作については、ある国語辞典には1万以上の動詞が収録されていたりしますが、こういった複雑な人間の行為というのはどのように生み出されているのでしょうか。

脳には様々な機能を持つ様々な領域がありますが、その中の一つに運動前野と呼ばれるものがあります。

この運動前野は他の領域と比べても随分大きそうですが、いったいどのような働きをしているのでしょうか。

今回取り上げる論文は、この運動前野について、左右の違い、前後(吻側ー尾側)の違い、内側と外側の違い、上下(背側と腹側)の違いについて論じたものになります。

引用:専修大学 応用心理学入門・心理学102 動機づけ

運動前野の部位による機能の違い

まず最初に左右に違いについてですが、右側は空間的手がかりに反応し、左側は非空間的手がかりに反応するという傾向があるそうです。これは具体的には赤色のターゲットに手を伸ばすというような課題であれば左運動前野が優位に活動し、画面上にランダムに表示されるターゲットに手を伸ばすという課題では右運動前野が優位に活動するというようなものになります。

次に内側と外側の違いについてですが、内側は内発的になされる運動に関わり、外側は外発的になされる運動に関わる傾向があるそうです。

3つ目に前側(吻側)と後ろ側(尾側)の違いについてですが、前側は認知的要素が強く、後ろ側は運動実行的要素が強いことが述べられています。これをもう少し詳しく述べるなら、前から後ろにいくに従って、複雑な運動から単純な運動へ、行動の意図から実行そのものへ、運動学習初期(意識的運動)から運動学習後期(自動的運動)へといった傾向があることが述べられています。

4つ目に上側(背側)と下側(腹側)の違いについてですが、背側は空間情報処理に関わり、腹側は物体情報処理に関わると考えられています。これは例えば手をのばすという動作にしても、どこに手を伸ばすのかという要素は背側運動前野の活動を促し、何に手を伸ばすのかという要素は腹側運動前野の活動を促すということになります。またこれに加えて、背側は手足の動きに関わり、腹側は指や口、声道の動きに関わるそうです。

私達の運動というのは無数にありますが、様々な要素を組み合わせることで成り立っているのだなと思ったり、運動前野というのはひとくくりにするには多彩な機能を持っているのだなと思いました。

また自分の研究では、空間表象の表出に関わる神経活動を調べているのですが、不思議と右運動前野の活動が高く、これには右側が空間的手がかりに反応するということが反映されているのかなと考えたりしました。

【参考文献】

Schubotz RI, von Cramon DY. Functional-anatomical concepts of human premotor cortex: evidence from fMRI and PET studies. Neuroimage. 2003;20 Suppl 1:S120-S131. doi:10.1016/j.neuroimage.2003.09.014

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