女房としての扁桃体、旦那としての一次視覚野
扁桃体を損傷すると場合によっては怖いものが目に入らなくなるということがあるそうです。
具体的には視界に蛇がとぐろを巻いていようが、食卓に蜘蛛が這っていようが、機嫌の悪そうな上司がじっとこっちを睨んでようが気づかない。
こんなことから扁桃体というのは情動を揺さぶるような刺激を即座に検知するようなものではないかということが言われているようです。
といっても扁桃体がなければ怖いものがわからないというわけでもなく、ヘビの写真を見せれば「これは怖いものです」、タランチュラの写真を見せれば「これは毒を持った危険な蜘蛛です」ということは報告できる。
つまり扁桃体が損傷していようが損傷してまいが、それが危険な物体ということは認識できる。
気づくことはできないけど、分かることはできる。これはどういうわけでしょう。
今日取り上げる論文は扁桃体損傷患者を対象にこのことについて調べたものです。
結論を述べると、扁桃体の仕事は恐怖対象を見つける仕事の監督役、言い換えれば女房役として働くのではないかということです。
では、扁桃体が女房役なら旦那役は何に当たるのでしょうか?
旦那はいわゆる一次視覚野を含む新皮質での処理に当たるようです。
視覚情報を処理する場合、皮質下を抜けて高次視覚野、前頭前野に直接抜けていく皮質下経路と順々に一次視覚野→二次視覚野・・・と抜けていく皮質経路があるのですが、
網膜⇆V1⇆V2⇆・⇆高次視覚野⇆扁桃体⇆前頭眼窩野
↓ ↑ ↑
→皮質下経路→→→→→→→→→→→→→→
扁桃体を含む皮質下経路が皮質経路がしっかりと働けるようにウラで皮質経路をコントロールしているのではないかということが実験結果から述べられています。
【要旨】
「その個体にとって重要な情報を迅速かつ効果的に検出するために、ヒトは特別な能力を持ち合わせている。我々は、人の扁桃体の重要な機能は情動的に重要な情報を強化することであると考える。「注意の瞬き」といわれる課題では、健常者であれば第二刺激が情動的な言葉であった場合、この「注意の瞬き」効果が減弱するが、両側の扁桃体損傷患者においてはこのような効果が見られない。左右の損傷患者を対象にした実験からこのような効果減弱は左扁桃体に由来することが考えられた。しかし情動的な言葉に特殊な反応を示さない左扁桃体損傷患者であっても、示されている言葉の意味については十分認知することができていた。これらのことから情動的な知覚に関わる神経基盤は記憶の再生と知覚的経験の調整に関わっていることが考えられた。」
参考URL:Lesions of the human amygdala impair enhanced perception of emotionally salient events.
コメント
扁桃体の役割は縁の下の力持ち的なものかなと思いました。
オモテとウラ、旦那役と女房役、皮質と皮質下の関係は一夫一妻制に似ているなあと思いました。
いや、一人の妻が多くの旦那を束ねる多夫一妻制か。
女性バンザイヽ(=´▽`=)ノ
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