意識の関与と記憶の種類?
記憶力がいいとか悪いとかいいますが、記憶にもいろいろあるのではないかと思います。
例えば私でいけば人の顔と名前を覚えるのが苦手ですが、だからといってすべての記憶が悪いわけではない。
あのときああいった、あのときこんなことをしたというエピソード的な記憶は「よくそんなこと覚えているね」といわれるくらいよく覚えているし、一度食べた料理の味付けはまず忘れることがない。
こんなふうに記憶にもいろいろあって、人によって得意な記憶分野というのもあるのではないかと思います。
記憶の分類としては
短期記憶と長期記憶の分類、
あるいは
宣言的記憶と非宣言的記憶の分類、
※宣言記憶:言葉にできる記憶(いろんなエピソード、あるいは歴代の天皇の名前やappleという言葉の意味など)
※非宣言記憶:言葉に出来ない記憶(自転車の乗り方や舌触りの記憶など)
があるとおもうのですが、今日取り上げる論文はこの記憶の分類について新しい方法を提唱したものです。
ではどう新しいのでしょう?
これは今までの記憶の分類の仕方が覚えている時、あるいは思い出している時「意識」が関与しているかどうかで分けているかで分けていたそうです。
これはスキーのエッジの立て方やバレーのスパイクの手首の角度なんかは、はっきりとは意識されない状態では記憶されるのに対し、去年の旅行の思い出やappleという言葉の意味ははっきりと意識された状態で記憶される、そんな違いで分けられていたようですが、
今日取り上げる論文は、意識うんぬんの話を記憶の分類から抜いて考えようというお話だと思います。
ではどう分けるのか?
一つは時間、一つはあいまいさのようです。
時間でわけるというのは、すぐに覚えるか、それとも時間をかけて覚えるかということで分けるということで
すぐに覚える記憶としては旅行の思い出のようなエピソード記憶、あるいはここに来たことがある、この人にあったことがあるという馴染み記憶があるそうです。これは瞬時に記憶形成される、
ゆっくり覚える記憶としては自転車の乗り方や間のとり方なんかはゆっくり時間をかけて覚えるものなのではないかと思います。
あいまいさというのは、例えば旅行の記憶というのは曖昧で、場所や時間、順序いろんな記憶情報がぼんやりと連合された形で記憶される。
これに対し、appleという言葉の意味はただひとつでそこに曖昧さがありませんし、包装の仕方、ラッピングの仕方といった手続き的な記憶もわりときっちりした感じで記憶されるのではないかと思います。
そう考えると
すぐに覚えて曖昧(エピソード記憶)
ゆっくり覚えて明瞭(手続き記憶、古典的条件付け(パブロフの犬)、意味記憶)
すぐに覚えて明瞭(馴染み記憶、プライミング記憶)
などで分けかたができそうです。この分けかたでいけば覚えている時に意識うんうんというのはこのわけかたでは絡まない。
このそれぞれに対応する脳活動がそれぞれあって、その脳活動で分けたほうがすっきりするのではないかというのがこの論文の趣旨だと思います。
詳しいことを知りたい方はこの図がわかり易かったので参考にしていただければと思います。
【要旨】
「現在主流となっている長期記憶のモデルでは、記憶の種類は、記憶の取り込みや再生が意識的か、非意識的かによって分けられている。エピソード記憶というのはイベントに関連する様々な情報が瞬時に連合されて形成されるが、この主流となっている長期記憶モデルによると、このエピソード記憶のベースになっているのは海馬と意識である。しかし近年のヒトや動物を対象にした研究によると海馬による記憶形成は、長期記憶、短期記憶いずれにしても意識の有無とは関係なく行われることが示されている。意識は宣言的な記憶や非宣言的な記憶のいずれにも大きな役割を果たしていないように思われる。このようなことから意識の有無よりも処理様式に基づいた記憶モデルが必要であると考えられる。」
参考URL:A model for memory systems based on processing modes rather than consciousness.
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