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自己認知と他者認知はどこまで同じなのか?

ヒトは同情をする生き物です。

自分の大事な人が目の前で苦しんでいると、あたかも自分の身が切られるような思いがしますが、こういった時、脳は自分と他人の区別がついているのでしょうか。

今日取り上げる論文は脳が自分と他人をどのようにして区別しているかについて調べたものです。

脳はいろんな情報処理に関わるシステムが組み合わさってできているのですが、その中でもとりわけ「わたしはわたし」という感覚に関わるシステムがあることが知られています。

このシステムは面白いことに他人のことを考えている時にも活動するのですが、はたしてその違いはどういうものなのかということについていろいろな論文から検証したものです。

結果を述べると自分と他人の違いというのは相対的なものでしかないということです。

「わたしはわたし」システムの中でも、より「わたし」に反応する領域と、より「他人」に反応する領域があるのですが、より親近感が近いヒトほど「わたし」領域の活動が濃くなり、「他人」領域の活動が薄くなる、

領域A>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<領域B
完全わたし・多分わたし・他人っぽい・完全他人

上図参考URL:https://lh3.googleusercontent.com/knDQG0D0U2vpQs2xwxYE5WtOTAXUSfDOBPEMvcbUJMc90SjFkkKflIVzw3zD-fh4XTjRgw=s47

というように、わたしっぽくなるにつれて領域Aの活動が高くなり、他人っぽくなるにつれて領域Bの活動が高くなる、そういった傾向があるようです。

それゆえ母親が自分の子供を見ている時というのはおそらく領域Aの活動が高くなり、限りなく自分に近い他人、そういった感覚がでてくるのかなと思いました。

 

【要約】
自己と他者の違いというのはどのようになされているかという問題は心理学分野でも神経科学分野でも長く注目されてきた。脳科学による知見から脳の様々な領域、とりわけ内側前頭前野が自己と他者の認知の療法に関わることが示されている。今回自己と他者の分別をテーマにした107の神経科学的研究を対象にメタアナリシスを行い、内側前頭前野における自己と他者の違いについて研究を行った。メンタライジングを伴わない自己と他者の判別課題においては共に内側前頭前野の活動が認められ、左頭頂側頭接合部と後帯状皮質の活動を伴っていた。自己認知と他者認知を直接比べた場合、自己認知に関連して腹内側前頭前野と左腹外側前頭前野、左島皮質の活動がより増加する傾向が見られた。これに対して他者認知においては背内側前頭前野と両側の頭頂側頭接合部、、楔部の活動増加が認められた。ロジスティック回帰分析では腹側および背側の内側前頭前野は機能的勾配を示していることが示された。また個人を対象にした研究からも自己認知であればより腹側の内側前頭前野に、他者認知であればより背側の内側前頭前野に活動が増加する傾向があることが示された。これらのことから自己と他者の認知というのは局所的になされるのではなく、分散的な仕方で処理されることが考えられた。

参考URL:A meta-analysis of functional neuroimaging studies of self- and other judgments reveals a spatial gradient for mentalizing in medial prefrontal cortex.

コメント

少し詳しい話をすると

デフォルトモードネットワークの中でも大事なのが内側前頭前野と言われる領域で、これは自分のことや他人のことにも反応するのですが、

この領域は背側と腹側の二つの領域に分けられ、前者の活動が高いほど他者的認知、後者の活動が高いほど自己的認知ということだそうで

なんでそんなふうかというと他者的認知に関わる背側領域は脳の他の認知系領域(背側前頭前野、海馬など)との連絡が強く、自己的認知に関わる腹側領域は情動との関連が深い辺縁系領域(扁桃体、島皮質など)との連絡が強いという解剖学的な背景があるのではということです。

つまり
わたし系認知ーーー他者系認知
情動系領域ー腹内側前頭前野ーー背内側前頭前野ー認識系領域

というようなネットワークを作っているということなのかなと思います。自分的感覚、つまり主観というのは常に情動的に感じるものであることを考えても。

完全な自分や完全な他者というのはなく、ただそんな脳がそんな風に認識しているだけで、自分とか他人というのは程度の問題なんだろうなと思いました。

 

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