
扁桃体と危険認知の関係とは?
今日取り上げる論文は、危険を見出す仕組みについて調べたものです。
ヒトは必ずしも危険に対して敏感というわけではないようです。
何かに集中している時というのは、他の刺激はシャットアウトされることもあるのではないかと思います。
携帯電話の細かい文字を一生懸命追っていれば、脇から走ってくる車に気が付かないこともあるでしょう。あるいは上司が怖い顔で睨んでいるのも気が付かないこともあるでしょう。
こういったことに見られるように、取り組まなければいけない情報量が多すぎる時には、危険を検出するはずの扁桃体がうまく働いてくれないのではないかということが言われてきたそうです。
この研究では不安感を掻き立てるような状況下では、取り組まなければいけない情報量が多すぎる時でも、扁桃体が高い活動を示すことが述べられています。
これを臨床場面で考えれば、歩行能力が同じくらいであれば自信満々な患者さんほど転びやすく、怖がりな患者さんほどわりにしっかり歩けるということなのかなと思いました。
自信満々な患者さんも、怖がりな患者さんも、身体能力が同じくらいなら、歩行に際して処理しなければいけない情報量も同じくらいになると思います。
足元を見て、周りを意識して、食堂、トイレまでの距離を考えて、脳の中はそれなりにいっぱいいっぱいなはずです。
同じいっぱいいっぱいならば、怖がりな方が扁桃体がよく働いて、結果として危険情報をきちんと検出でき、転倒のリスクが低くなるということなのかなと思います。
結論としては適度な不安感は扁桃体の活動を高め、情報処理範囲を拡大するということになるのだと思います。
【要旨】
「知覚的負荷量が多い状況では、扁桃体の活動は抑制され、危険を検出する能力は低下すると言われている。しかし生物学的に考えた場合、個体は危険に対して迅速に反応すると思われる。本研究ではショックを与えうるような状況で負荷量の多い知覚課題を行わせ、そのような状況下で危険刺激を検出する課題を行わせた。結果、ショックを与えうるような状況下では、高い知覚負荷量にもかかわらず、危険の検出と関連する扁桃体の高い活動が見られた。またショックを与えうる状況下では外側前頭前野においても高い活動が認められ、この部位が危険の検出に関与していることが考えられた。以上のことから不安感を引きおこす状況下では、処理すべき情報量が多い時でも、注意の範囲が拡大され、危険の検出に敏感になることが考えられた。」
コメント
車の運転でも慣れてきた頃がいちばん危ないというのはこういうことなのかなと思います。
怖がらなくても駄目だし、怖がりすぎてもすくんでしまって駄目だし、
適度に怖がる、適度な緊張感があるという時がいちばんパフォーマンスが上がるときなのかなと思います。
昔、不安神経症、薬物依存症から立ち直ったバーのマスターから「きちんと怖がることが大事」みたいなことをいわれて
これは自分の店を開業するに際して、リスクを十分に勘案した上で、理性的に「怖がる」ということなのかなと思うのですが
不確定な対象に対して、ヒステリックに怖がるでもなく、楽観視するでもなく、現実を見据えてきちんと怖がるということで
前頭前野と扁桃体のバランスって大事なんだろうなと思いました。
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