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「時間における自己:精神的な時間旅行で想像された自己の位置は神経活動に影響を与える」

私達の脳は時間旅行者のようです。

忙しい日常の中にいると意識が今の今に留まるということはなかなかありません。

明日どうしようか、この資料来週まで間に合うか、この間のあれまずかったかな、ああ、あの頃は良かったなどと過去と未来を行ったり来たり、恒常的に時間旅行を繰り返しています。

こういった現象は”精神的な時間旅行”とも言われているのですが、そもそも何の必要性があってヒトはこんな能力を身につけたのでしょうか。

今日取り上げる論文はこの精神的な時間旅行をしている時に脳がどのように活動しているかについて調べたものです。

この実験では過去や未来をいろんな条件で想像させて、その時の脳活動や感覚を報告させているのですが、総じて過去を思い出すよりも未来のことを考えたほうが、脳の反応時間も速く、かつ想像される感覚も詳しいものになる傾向があったそうです。

こういったことから未来を予測するという能力は、これができることでサバイバル能力が高まり、生存確率が上がるために進化の過程で獲得したのではないかということが述べられています。

【要約】
自分がひとつづきの時間の中にいるという感覚があるゆえ、ヒトは想像の中で未来や過去に行ったり来たりすることができるが、こういった能力は“精神的な時間旅行(MTT:mental time travel)”と呼ばれている。このMTTとは自分を過去の異なる時間、異なる場所において感覚したり、あるいは将来予定されている出来事にいることを想像したりといった能力である。今回の実験では誘発電位モニタリングと電気的神経画像を組み合わせ、相対的なMTT(ある出来事より前の時間か後の時間かという想像)と絶対的なMTT(今よりも前の時間か後の時間かという想像)が異なる認知処理から構成されていることを示した。このMTTに係る活動は後頭側頭皮質、側頭頭頂皮質、前内側即島皮質からなるネットワークに見られた。またこの実験からMTTに関わる認知活動においては自伝的記憶に関わる領域だけでなく、自分がどこにいるかという感覚を処理する領域の活動も関っていること、また過去の想起と比べて未来の想像というのはより速く、強く処理されることが示された。

参考URL:Self in time: imagined self-location influences neural activity related to mental time travel.

コメント

心配事はやっかいだけど、これはこれで生存能力を高めるという効用もあるんだろう。

もう少し詳しい話を書くと

脳の中には自分の身体がここにある、これが自分の体だという認識に大事な領域があり、場所は耳の上のあたり、頭頂側頭接合部といわれている領域があります。

この領域は見たり聞いたり触ったり動いたりといった情報が集まってくる情報センターのようなところなのですが、この領域に電気刺激を加えて機能を低下させると幽体離脱体験のようなものが引き起こされることが報告されています。

つまりいろんな情報を統合して「わたしがここにある」という意識につなげるような場所だと思うのですが、実験で過去や未来に想像の中で自分を移動させると、やはりこの頭頂側頭接合部に活動の変化が見られ

そういったことから時間軸の中で自分を「今」というポジションに留めるような働きがあるのではないかということが述べられています。

空間というのは東西南北上下左右と広大で

「ここにいる」「ここにある」という意識がなければ迷子になってしまいそうですが、それは時間も同じで今の前後に無限の過去と無限の未来が横たわっていて

「今」という意識がなければ広大な時間の中で迷子になってしまう。

そういう意味でこの頭頂側頭接合部というのは時間と空間の中で迷子になりそうな意識を「今、ここ」に引き止めておくようなものなのかなと思いました。

 

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