「デフォルトモードネットワークの分留:認知調整における背側及び腹側後帯状皮質の異なる役割」
21世紀になってもよく分かっていないものの一つに「意識」というものがあります。
この意識とは何ものかというのは非常に難しい問題だと思うのですが、一つ確実に言えるのはどんな意識にしろ方向性があるということでしょう。
リンゴが目の前にあれば意識はリンゴを向いているし、お腹が痛いという時には意識はお腹の方を向いている。
こんなふうに意識には方向性があることを哲学の言葉で意識の志向性というようですが、この志向性というものはどんなふうに分けることが出来るでしょうか。
ごくごく大雑把に考えれば添付の図のように内側に向いているか外側に向いているかでしょう。
これに対応するように脳の中には自分の内側の情報に気を向けるシステムと、それとは対照的に自分の外側の情報に気を向けるシステムの二つがあるのですが、私達の脳はどうやってこの二つを切り替えているのでしょうか。
今日取り上げる論文では脳の中に内側意識と外側意識の切り替え調整を行っている場所があることが示されています。
【要旨】
後帯状皮質はデフォルトモードネットワークを構成している中でも主要な領域である。この後帯状皮質は課題の実行に伴い他のデフォルトモードネットワークを構成する領域同様活動を低下することが知られているが、解剖学的にはこの後帯状皮質は均一の領域ではなく、また他の霊長類を対象にした実験では注意課題と関連して活動することが報告されている。本研究では複数の注意課題を行わせこの後帯状皮質の機能について調査を行った。結果後帯状皮質は腹側領域と背側領域に分けられることが示され、さらに腹側領域は課題が難しくなるにつれ他のデフォルトモードネットワークとの関連性を弱め、認知コントロールに関わる領域との逆相関性も弱める傾向があることが示された。これに対し背側領域は反対の活動パターンを示し課題が難しくなるにつれ他のデフォルトモードネットワークとの関連性を強め、認知コントロールに関わる領域との逆相関性を強める傾向があった。また安静時には背側領域はデフォルトモードネットワークと注意ネットワークの両方と関連性を持っていることが示された。結論を述べると後帯状皮質は当初予想されたとおり内的な思考と関連して活動していたが、課題が簡単な時は他のデフォルトモードネットワークとの結び付きが強い傾向があった。また課題が難しくなるにつれ後帯状皮質背側領域と認知調整領域との関連性が強くなることからこの領域が内的情報と外的情報への注意の配分を調整する上で重要な役割を果たしていることが考えられた。
コメント
世の中にはボーっとして自分の世界にいったまま帰ってこれない人がいますが(わたしも帰ってこれない星人の一人です)
こんな時はこの切替がうまく聞かないんだろうなと思います。
無論この切り替えはバランスの問題で、どっちがどっちというわけでなくどれだけ上手に配分できるかというので色んなパフォーマンスが良かったり悪かったりすると思うのですが
脳の中にはこのバランサーに当たるような場所があるようです。
少し詳しい話をすると、というかややこしいので以下は読み流してもらっても良いのですが
脳の中にはデフォルトモードネットワークといういわば内側意識の中枢のようなところがあります。
これを構成する主要な領域で後帯状皮質というものがあるのですが、今日の論文はこれを細かく分けてみたもので
大きくは背側領域と腹側領域に分けられ
その中でも背側領域がスイッチングに関わっていることが述べられています。
簡単に図示すると
他のデフォルトモードネットワーク
⇅
後帯状皮質背側領域
⇅
注意/実行領域
というふうになっていて内側意識と外側意識の橋渡しをしているようです。
ボーっとしている人は時として何かにハマるとすごい集中力を示すことがありますが
バランスの崩れをうまく使えたらそれはそれでいいんだろうなと思います。
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